【コンサル物語】エンロン事件とコンサルティング会社
2002年7月にアメリカで成立したサーベンス・オクスリー法はコンサルティング業界にも大きな影響を及ぼすものでした。監査の独立性を守るため利益相反に強い規制を求めるこの法律により、会計事務所が経営コンサルティングを行うことが実質的に禁止されたからです。
20世紀末頃から大手会計事務所Big5(ビッグ・ファイブ)※は自社で抱えていたコンサルティング部門を売却し切り離すようになっていました。2002年のサーベンス・オクスリー法の成立がその流れにとどめを刺したと言えるかもしれません。今回はこの法律の成立に影響を与えたエンロン事件の歴史とコンサルティング会社の関わりを見ていきたいと思います。
最初にエンロンという会社とその顛末をご説明しましょう。
1985年に2つの天然ガス会社が合併しエンロンという会社ができました。当初は天然ガス・石油の卸売等を生業としていましたが、1990年代に入りアメリカ電力市場の規制緩和政策の進展に合わせ電力事業にも進出しエネルギー事業を拡大しました。20世紀末にはインターネット上に電力・原油・天然ガス・石炭等のエネルギー商品の取引所(エンロンオンライン)を開設、海外展開にも力を入れ、会社を急速に拡大していきました。その結果、2000年の売上は全米7位にまで拡大、株価上昇とともに優良企業の名声を手に入れるまでになったのです。
一方で、好調に見せていた利益の裏には巨額の負債が隠されており、その大半を連結対象外の会社(SPE 特別目的事業体)等に飛ばし、不正処理を行っていました。そのことが明るみになるとエンロンの株価はわずか数か月の内に暴落し、2001年の末に会社は破産したのです。
そして、エンロンのこの一連の不正会計を監査し結果的に投資家を欺くことに加担してしまった会計事務所社がアーサー・アンダーセンだったというわけです。更には、エンロン本体の負債を別会社に計上するという会計処理をエンロンにアドバイスしていたのが、アーサー・アンダーセンのコンサルティング部門であり、マッキンゼーであったわけです。
20世紀が終わる正にその瞬間まで絶好調に見えたエンロンですが、21世紀に入るやその綻びが表面化し、1年も経たないうちに破産してしまいました。そして、後を追うように会計監査を担当していたアーサー・アンダーセンにも同じように正義の風が襲い、89年続いた巨大会計事務所を消滅させました。
なぜこんな事になってしまったのでしょう。会計監査とコンサルティングサービスを同じ企業に提供し続けた大手会計事務所でどのような問題が起こっていたのでしょうか。
(続く)
(参考資料)
『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 村井章子訳)
『名門アーサー・アンダーセン消滅の軌跡』(S・E・スクワイヤ/C・J・スミス/L・マクドゥーガル/W・R・イーク 平野皓正訳)
『The World Newest Profession』(Christopher D. McKenna)
『マッキンゼー』(ダフ・マクドナルド 日暮雅通訳)
『バランスシートで読みとく世界経済史』(ジェーン・グリーソン・ホワイト 川添節子訳)
『コンサル一〇〇年史』(並木裕太)
『エンロン崩壊の真実』(PETER C.FUSARO/ROSS M.MILLER 橋本碩也訳)