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The Neighbourhood - Chip Chrome & The Mono-Tones (2020)
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総評: 8/10
・・・自分を取り巻く全てに違和感を覚え別ペルソナの姿で孤独な胸の内を吐露したアルバムを、「イケメンバンドのメンヘラ風駄作」と一聴だけであやうく切り捨てそうになったのは、他でもない私自身が合理主義に染まった、感性の乏しい人間だからかもしれない。
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まず、Chip Chromeとはいったい何なんだろう。
幼少期から何においても中途半端で男らしくもなく女らしくもなくどこにも属せない疎外感。ビュー数といいね数で存在価値が値決めされるSNSへの違和感。Jiggy Stardustへの猛烈なシンパシー。死への憧れ。それら感情が高まった青年=Jesse Rutherfordが27歳の夏に自分を捨て作り上げた別人格。らしい。Jiggyはドラッグ中毒でしたが、Chip ChromeはSNS中毒。The Mono-Tonesは彼のバックバンド。
確かに歌詞を見ると、異様な孤独感、荒涼とした表現が目立つ。またコミュニケーションを求めながら相手の反応を恐れて何もできない様子が複数の曲で見て取れる。音も異様。ヨレヨレのアコースティックギター。めちゃくちゃエモくて今にも泣き出しそうな曲ばかり。
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「だから全身を銀色に塗ってナヨナヨと歌うって?ただのメンヘラ気取りじゃないか。」そんな思いが一瞬よぎる。
なぜなら、これまで通りのチャラいディスコポップもいくつか顔を出す。「どうせライヴではそういう曲ばかりを上半身裸になって歌うんだろう?」性格の悪い私はそう訝しむ。
「時代が鬱っぽいからそれに媚びた作風にしただけなんじゃないの?」そう早合点し、4/10と採点しそうになる私。
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そんな思いが消えるのは、"Devil's Adovocate"を聴いた時。”全てを捨てて売れる前に戻りたい”。”妻もバンドも捨てて自分だけで生きたい”。そんな思いが、燃えさかるギターとクールなボーカルで表現される。これにはビビった。「この人本当に病んでないか?」
そう思うと、全ての曲が本気で病んでいる一人の男の独白に聞こえてくる。本質としてはそれこそSparklehorseやEelsに近いものがあるかもしれない。音すら似ている。
ここで冒頭の段落に戻る。評論家じみた視点で全てを均一化して上から判断しようとしてた私は、まさに本作で表現される"一番イヤなタイプの人間"ではないか?そんな疑問がよぎる。
とりあえず素直に自然に本作を聴き、感じるようにしてみる。気に入りそうな予感がする。
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全11曲、31分。2,6,9,11が特にエモい。
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チャラ男がメンタル病んで作ったアコースティックな作品。よく似ている。