Mystery Jets - A Billion Heartbeats (2020)
総評 : 8/10
イギリスの中堅バンド、Mystery Jetsの6枚目のアルバム。ストリーミング/ダウンロードは4/3に公開済みだが、フィジカルは6/26に発売される。
Mystery Jetsは3rd『Serotonin』(2010)までは、可愛らしいポップソングを作るこじんまりしたバンドだった。しかし4th『Radlands』(2012)から本格志向が窺えるようになり、5th『Curve Of The Earth』(2016)では緻密な演奏と爆発的なダイナミズムを披露。とんでもない大器晩成型であることを披露した。
6thとなる本作でも、シリアスな本格派路線は継続。大作志向だった前作と比べると、込められた感情の強さはそのままに、一曲一曲の独立したポップソングとしての強度が増し、極上のソングブックに仕上がっているような印象。
前作と並ぶ最高傑作であり、ここ10年で最も力強いロックアルバムの一つであると宣言してしまいたくなるような、そんな10曲が収められている。
1. Screwdriver
昨年8月に公開された。開放弦を活かしたヘヴィなリフがとても印象的。2016年のジャムセッションで生まれた曲であり、そう言われてみると『Curve Of The Earth』収録の"Taken By The Tide"と姉妹曲のように感じられる。
2. Petty Drone
P.I.L.の『Rise』にインスピレーションを受けたとのこと。キャリア後半のThe Beatlesのメロディに、Foalsの力強さを加えたような印象。ロックのダイナミズムに意外性溢れるポップなメロディを載せた佳曲。
3. History Has Its Eyes On You
Alt-Jを思い出させるようなアートロック。一定して流れるダブベースにマントラのようなボーカルメロディが非常に幻惑的。アイスランドの氷河を散歩してる中で思いついた曲らしい。
4. A Billion Heartbeats
「悲劇を経ないと本質が見えないのはなぜだ?」「どうして人は冷たい言葉でこの世の終わりまで他人を騙し続けるんだ?」という歌詞が、バンドの歴史を総括するような力強い音で歌われる。ここまで4曲、怒涛の攻勢。
5. Endless City
ギタリスト:William Reed(作品完成後脱退)がボーカルを取る、落ち着いた曲。それでも非常に力強いメロディが乗せられており、本作への彼らの意気込みを感じ取れる。
6. Hospital Radio
昨年7月に公開されたリードシングル。ここでも非常に力強い演奏とメロディで圧倒される。アルバムのハイライト。NHS(国民健康保険制度)を称賛する歌詞。コロナ対策で奔走する同制度職員を称えるコンピレーションアルバム(Wolf Alice等参加)も出ていますが、図らずもその流れの先鞭をつけたような形に。
7. Cenotaph
私が一番好きなのがこの曲。透明感のあるアコースティックバラードで、メロディの美しさ、音の繊細さに心奪われる。
8. Campfire Song
アルバムリリース後、ファンやメディアからの評判が高かった曲。全編キャッチーなメロディで溢れており、ソングライティングが乗りに乗っていることを存分に証明している。デビューから15年経って全盛期を迎えるのは本当にすごい。
9. Watching Yourself Slowly Disappear
Frightened Rabbitの亡くなったボーカリストに捧げた曲。これまた非常に力強い演奏に歌。アルバムの印象にダメを押す。
10. Wrong Side Of The Tracks
Coldplayみたくアンセミックなクロージング。ここまでの強力な曲に比べるとやや弱いような気もするが、穏やかにフェイドアウトすることで上手くクールダウンさせてくれる。