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Blur - Blur (1997)
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10/10
★★★★★★★★★★
USオルタナ/ローファイと、UK特有のアヴァンギャルドな実験精神。その二つの異分子をこれほどまでに高いレベルで接合させたアルバムは寡聞にして知らない。彼らなりの米英折衷作にして最高傑作である。
まず本作は「グランジの影響を受けた」と紹介されることが多いが、事実とは異なっている。本作からグランジの要素はまったく感じないし、実際DamonやGrahamがインスピレーション源として挙げていたのはグランジではなく、Guided By Voices, Pavement, Sebadoh, Beck, Beastie Boysといったオルタナ・ローファイ・ヒップホップバンド達だ。荒削りで抽象的ながら、無性にエモーショナルなサウンド。それがBrit Popに辟易した彼らの新たな指針となった。
それと交わったのが、Damonが持っていたUK特有の極端にアヴァンギャルドな実験精神だ。"Theme From Retro"、"Death Of A Party"、"Strange News From Another Star"、"Essex Dogs"に顕著な、曖昧模糊で煙たいサイケデリックな曲調。ボーカルエフェクトやダブの多用、あえて抑揚を排したサウンドが印象的だ。『Low』前後のDavid BowieやPrimal Scream『Vanishing Point』もチラつくそんなサウンドは、AIDS患者の破滅的なパーティー、ヘロイン中毒者の自嘲、ヘッセの短編からの引用など、ダークで刺々しいテーマが目立つ歌詞にこの上なく合っている。
Grahamのプレイは昔からBrit Popの枠に全く収まらないエキセントリックなものだったが、本作のローファイ化/抽象化に伴って、奇抜なプレイをより堂々と、遠慮なく開陳するようになっている。"Country Sad Ballad Man"、"On Your Own"、"Death Of A Party"、"I'm Just A Killer For Your Love"、"Essex Dogs"などでのプレイが特に個性的だが、これだけ珍妙なフレーズに説得力を持たせられるのは、古今東西見廻しても、彼くらいなものだろう。本作で最も評価すべきは彼の圧倒的なプレイである。
それらが見事に統合された、他に類を見ないほど意欲的で実験的で退廃的で刺激的なアルバムに仕上がっている。Blurの全アルバムの中で『Think Tank』に並ぶ最高傑作であると同時に、ムーヴメントが崩壊した90年代後半においてロックの発展性、奥深さを見事に示してみせた歴史的傑作だ。
※余談だが、そんな本作と次作『13』に対して噛み付いたのがPavementのStephen Malkmusだ。「彼らはアイデンティティを見失っている。挑戦すればいいってもんじゃない。Radioheadの方が遥かに良い。Radioheadみたいになれないのは自分たちが一番分かってるんじゃない?」と言い放ったというのは意地悪いというか、彼らしいと言うか。今は知らないが、一時期、DamonとStephenは険悪な仲に陥っていたらしい。
3, 5, 8, 10, 12が特に素晴らしい。