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Iceage - Seek Shelter (2021)
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9/10
★★★★★★★★★☆
死ぬほどカッコいい。Iceageの最新作は刹那のロマンティシズム漂う無上の傑作である。
暴力、倦怠、破滅。仲間内にしか分からぬ言語を使い、肩を組んでじゃれ合い、同じボトルの酒をあおる。リヴァー・フェニックス/キアヌ・リーヴス主演『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)のスラッカーコミュニティにも共通するような、そんな若者の美しい姿が目に浮かぶ。
古き良きガレージロックのクリシェも借りながらタイトに仕上げた前作『Beyondless』に比べ、本作のサウンドにはもっと悠然としたスケールがある。特に印象的なのは、行間と余韻を活かしたサウンド構成と、ゴスペルやブルースに影響された演奏だ。先行4曲を聴いただけでもそれが分かるだろう。
"Shelter Song"。グッと落とされたBPM、マイナーも躊躇無く使うブルージーなコード進行、ゴスペルの影響を受けた大陸的なボーカルメロディ、荒野のボトルネック奏法。そして脂ぎった不潔な前髪の奥から覗く、野望と諦念を同時に感じさせる目つき。全てが完璧である。
一方"Vendetta"は2019年のライブ初公開時点では『Beyondless』の作風に則っていたが、ここでは大胆な4つ打ちとシンセによるリフに置き換わっており、攻撃的なダンストラックに変貌を遂げている。
"Gold City"ではピアノが土台を作り、ハーモニカが郷愁を誘う。行間と余韻を活かした詰め込みすぎない音作りは前作から大きく飛躍したポイントだろう。彼はこの曲についてこう語っている。街の表情の変化一つにここまで陶酔できるそのセンス、間違いなく信頼できる。
「自宅にいて、束の間の瞬間酔いしれて、一瞬はっとなって、空がテクニカラーになったんだ。その絶頂ですべてが完璧なように短い間だけど感じたんだ。車の光と沈む夕陽がくすんだフィルターを通してきらめき、黄金になっていたんだ」
"The Holding Hand"は、単調なコードの上で4拍目に音を解放するNick Caveに倣った"お得意"の曲だが、3rdまでの彼らならそれで曲を終わらせていた。だがこの曲では終盤にかけてI→VII→IV→IIという極度にドラマチックなコード進行を繰り広げ、曲をアンセミックに盛り上げる。斜に構えることをやめ、曲の持つエモーションを最大限に引き出すことだけに注力していることが窺える。彼らが本格志向への扉をぶち破った記念すべき瞬間だ。
その他、競争社会の諸行無常を歌った歌詞の中で賛美歌"Will The Circle Be Unbroken"のメロディを大胆に何度も繰り返す"High & Hurt"、華車なピアノをバックに視線を落とし疑念と諦念に浸る"Love Kills Slowly"、苦悩する文学青年ぶりを漂わせながらも曲はロックンロールに振り切った"Dear Saint Cecilia"など、力作が目白押し。
もう多くを語る必要は無い。完璧な最高傑作。
Bandcampは非ハイレゾ。
音質は正直微妙。ミックスを手掛けたShawn Evarett特有のドンシャリ感は、本作の土臭さにはあっていないような気がする。何でも高解像度にすればいいってもんじゃないんだけどね。