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Tears For Fears 『The Tipping Point』 (2022)
7/10
★★★★★★★☆☆☆
待望の新作。前作から18年ぶりとなる7作目。メンバーはRoland OrzabalとCurt Smithの2人。曲のほとんどは2人の作曲だが、Sacha Skarbekら外部ソングライターも関わっている。
このバンドは数年前からリバイバルが起きているが、それに応えるようなタイプのアルバムに仕上がっているとは感じなかった。大ヒットするような曲は無いし、サウンドも地味で迫力や即効性に欠けている。The 1975から興味を持った若い世代が本作に魅力を感じるかは疑問だ。実際、売上におけるフィジカル比率が高いというのは、オールドリスナーがメイン層ということに他ならない。
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だが本作の洗練された雰囲気の前では、そんなことは全く気にならない。淡いシンセのレイヤーがそよ風のように背後で流れ、エレアコとエレキが柔らかいメロディを奏でる。ドラムはロック的な主張はせず軽快なプレイに徹し、ボーカルは熱唱せず曲のムードに合わせ適切な熱量で歌う。その洗練を余すところなく伝える小綺麗に整理されたミックスも素晴らしい。
曲想が一番近いと感じるのは3rd『The Seeds Of Love』収録の"Advice For The Young At Heart"だ。あの曲の柔らかな感覚が本作には満ちている。桜の季節に聴きたい爽やかで儚い音。
逆に言えば、1st『The Hurting』のニューウェーブ然とした打ち込み&シンセ音&ボーカルからは遠いものに感じるし、バキバキだった2nd『Songs From The Big Chair』とは類似点を見出せない。リズムの強度、楽器の鳴らし方、アルバムコンセプトに至るまで、全てが真逆の作品と感じる。
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「2nd以来の傑作!」とか堂々と言われるとムッとしてしまうが、そもそも本作は「初期3作の輝きを超える」とか「超えない」とかそういう次元のアルバムではない。あれから30数年経過して還暦となってもなお、これだけ瑞々しい音楽を作り上げてくれたこと、それにただ感謝だ。