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2023年 ベストアルバム (新譜)
今年聴いた新譜の中からよく聴いていた16枚。2位のアルバムが一番おすすめ。
16位 Militarie Gun 『Life Under The Gun』
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簡潔なパンク/オルタナバンド。”銀シャリのみ”みたいなバンド。簡潔なくせに少し切ないところとか、完全に分かってるヤツらだと思う。"Never Fucked Up Once"は今年最も好きな曲の一つ。こういう曲をどんどん作ってくれたら良いな。
15位 Bruno Major 『Columbo』
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60’sブリティッシュロック方面にレイドバックした感じ。ちょっと甘過ぎる気もするし前作の方が音がモダンで好きだが、演奏とソングライティングは相変わらずかなりレベル高い。平日夜9時にこれを聴きながらソファで起きてるのか寝てるのか分からない時間を過ごすのが私の癒しだった。早く風呂に入れと妻にドヤされて我に返る。
14位 The Electric Soft Parade 『Avenue Dot』
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2010年代以降のSpiritualizedと似たような説得力を持つ、ハッタリや見掛け倒しでは絶対に作れないロックアルバム。個性的な音・テクニックがなくても意志の強さだけでここまでの作品が出来上がるんだという感動的な事実。全然売れてないのが不憫だと思ってたが、一周回ってそれすらかっこよく思えてきた。Elliott Smith〜このWhite兄弟〜Happynessにはソングライターとして同系列の天才を感じる。
13位 James Blake 『Playing Robots Into Heaven』
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彼の場合、歌モノをやるよりもエレクトロニカに振った方が何故か叙情性が溢れ出てくる。これはその典型例のような作品。飄々としているのに切なすぎて泣けてくるような感覚はまさに私の大好きな『Enough Thunder』や『The Colour In Anything』以来。「1st以前への原点回帰」という声もあるが本当にそうか? 明らかに前々作・前作の生暖かいウェットな質感が本作を支配している。
12位 Puma Blue 『Holy Waters』
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演奏面/アルバム構成面は前作よりタイトで焦点が絞れているが、しかし同時に感傷的/悲劇的な度合いがより強まってもいる。前作を超えたとは思わないが、より深く内面にアプローチした勝負作にして成功作と言えるだろう。”Hounds”での熱に浮かされて走るトリップホップ的感覚は新境地。
今後どういうふうに進化していくのだろう。Jeff Buckley『Grace』みたいなシンガーソングライターとしての極致的作品、もしくはTrickey『Maxinquaye』みたいな芸術本位の方向、はたまたRadiohead『In Rainbows』みたいなインディロックとしてのミニマル小宇宙、どの方角に進んでもおかしくない。
11位 Heavenward 『Pyrophonics』
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轟音ギターをあくまで切なく儚く掻き鳴らす。初期FeederとMy Vitriolがセッションしてるみたいなイメージ。”Be My Blues”の03:06~を聴けばDeftonesに影響を受けていることもよく分かる。やっぱ良い曲を書けるのが一番強いってのはジャンル問わない。とんでもないバンドに進化するポテンシャルを持っていると思う。これ一作で絶対に終わってほしくない。
10位 Kamaal Williams 『Stings』
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最大の特徴である猥雑で密室的なムーディさは控えめとなり、むしろ窓を開け放ち夜風を取り入れるかのような健康的な軽やかさが加わっている。このアコースティックな新境地が良い。ジャズという枠に囚われることを昔から嫌っていた彼だが、明らかなジャズと呼べるのも最早”Stings”一曲くらいかもしれない。
9位 Youth Lagoon 『Heaven Is A Junkyard』
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Sprklehorse, Eels, Bradford Coxと同種の繊細で壊れそうな魅力を備えている。音作りはアップライトピアノのオーガニックな音色を軸に据えながら同時に緻密で現代的な音響も兼ね備える。メロディは独特のフックセンスを持ち、ボーカルは消えそうに弱々しいがそれがゆえに心の弱いところを最短距離で握りしめてくる。他にない一枚。死の淵から作り上げた最高傑作。
8位 Paerish 『You’re In Both Dreams (And You’re Scared)』
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Radioheadの『The Bends』に対して「この曲のこのギターはグランジで、このリズムはトリップホップっぽくて…」なんて語る人はいないよね。なぜならあのアルバムこそがサブジャンルでの説明なんて必要としない「ロックそのもの」だとみんな痛いほど分かっているから。このアルバムもそう。若くして既に聖堂への扉を叩いている。文句無しの名盤。
7位 Slowdive 『Everything Is Alive』
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シンセとアンビエントの要素を増やし、流行りの’80s風スクエアなリズムも抜け目なく取り入れ、より完成度の高い、かつ入り込みやすいサウンドになっている。しかしやはり肝は極度にエモーショナルな音。前作ほどではないとはいえ、聞くものを永久の薄暮大聖堂へと連れていく力が依然、存在する。ただ前作(最高傑作だと思ってる)に比べると曲自体の訴求力はやや弱いかなと感じたのでこの順位。
6位 Full Of Hell and Nothing 『When No Birds Sang』
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シューゲイザーバンドNothing とグラインドコアバンドFull Of Hellの共作。Full Of Hellには興味を持っていたもののヘヴィ過ぎてこれまで食指が伸びなかったが、Nothingが見事に中和してくれたおかげで、無事Full Of Hell入門を果たすことができた。鬱屈曲、激情曲、インストを織り交ぜながら重々しい世界を作り上げる。6曲34分とこの作風にはちょうどいい短さ。
5位 Moon Safari 『Himlabacken Vol.2』
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2013年のVol.1と比べると勇壮で大仰なメロディアスハードロック色が強くなったかな?という気もしたけど、やっぱり聴き終わった後の感動的で爽やかな余韻は全く変わらない。曲の質も遜色無い。前作を大学生の頃にサイクリングしながら鬼聴きした身としてはこれはマジで感動もの。
4位 deathcrash 『Less』
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情けなさにも風格のようなものが加わってきたし、曲調も起承転結がはっきりするようになった。より洗練され意図がストレートに伝わりやすくなっている。それでいて一切の媚びや過剰さはない、まさにLess is moreな作品。ファーストを去年の年間ベスト1位にしたくらい気に入っていたけど、セカンドもこれ以上ない出来。
3位 Steven Wilson 『The Harmony Codex』
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王道プログレの力学、UKロックの翳り、緻密なエレクトロニクス、アンビエンスとインダストリアルのまぐわい。これまでの彼を構成してきた要素が全て融合された、ロックを統べる傑作。数曲の分かりやすい歌ものを除けばボーカルメロディはそこまで押し出しが強いわけではなく、音もギターソロ等の派手な要素は控えめにし、奥深い繊細さ/洗練された調和が重視されている。
多数のミュージシャンを曲の世界観に合わせて贅沢に起用し指揮者として妥協のない作品を作り上げるーーそう考えると、やっていることは往時のSteely Danと全く一緒だと思う。限られたバンドメンバーとやっていたことが良くも悪くもクリエイティヴ面での制約になっていたPorcupine Treeの「純ロックバンド」的な方法論とはある意味、真逆。
2位 Leave Yourself Alone 『Leave Yourself Alone』
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インディロックの良いところを全て詰め込んだような素晴らしい作品。切なくて蒼くて胸が熱くなる。ロックの良し悪しを各種チャート順位や再生回数で計りたがる最近の風潮はやっぱりアカンなと思わされる。もし自分がそういう聴き方しててこのアルバムに出会えなかったらと思うとゾッとするもん。とにかく6曲目を聴いてみてほしい↓
1位 King Krule 『Space Heavy』
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過剰な装飾を施すのではなく逆に剥がしていくことで、形而上の精神世界により深くアプローチすることができると知った者の音楽。シンプルなギターの調べが、どこまでも深い穴に落ちていくような感覚を伴って響いてくる。恐ろしい境地にたどり着いている。邪念ゼロ。澄み切った孤独。明らかに歴史。インディロック40年の歴史における最高傑作の一つ。”Our Vacuum”は私がこれまでに聴いてきたギターとボーカルを使った曲の中で一番良い曲かもしれない。それほど心酔している。
◉振り返り
今年アルバムを出したKing Krule, Steven Wilson, Moon Safari, Puma Blue, Slowdive, James Blake, Blur, Tribesなどといえば私の中で最高峰クラスのアーティストたちであり、これだけのクラスが勢揃いしたのは2017年以来のような気もする。
インディギターロック、インディフォーク、ポストパンク、ネオソウル、ジャズ系は今年マジで聴く気が起きなくて、良いアルバムもたくさん見逃してると思う。まあアルバムは逃げないから本当に縁があったらまたどこかで出会うべくして出会うだろう。
来年楽しみなのはBill Ryder-Jones, Adrianne Lenker, These New Puritans, Mystery Jets, Happyness, Turnstile, High Vis, Wolf Aliceなど。Tom Misch, John Mayer, Twenty One Pilots, Hurtsとかも新作出さないかなあと密かに期待している。来年も無闇にたくさんのアルバムに手を出すことはせず、出会った作品を徹底的に聴き込んでいきたい。