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The 1975 『Being Funny In A Foreign Language』(2022)
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6/10
★★★★★★☆☆☆☆
前作『Notes On A Conditional Form』で顕著だった過剰なまでの実験精神/先進性とは真逆の作風に仕上がっている。「コンパクト」「シンプル」という言葉でこのバンドのアルバムを言い表すのは初めてだ。
"Caroline", "I'm In Love With You"を筆頭にソングライティングは臆面も無くキャッチーで、安直な印象すら受ける。サウンド面でも新たな挑戦や耳を引く要素はほぼ聴こえてこず、単純明快で敷居の低いものに仕上げられている。「新規ファンの獲得」「仕切り直し」という狙いに沿ったデザイン。正直に言って、曲・サウンドとも面白味は無い。
冒険していない分、どの路線の曲も完成度は過去最高レベルにある。"Happiness"はファンクポップ路線の、"Caroline"はAOR路線の、"About You"はシューゲイザー/ポストロック路線の、それぞれ最高傑作だろう。Jack Antonoffによる破綻のない真っ当なプロダクションも拍車をかけている。それが新鮮味の無さに繋がっているわけだが、果たしてどれだけの数のロックバンドがこれだけのクオリティのものを作れるだろうか。
その破綻の無い音から聴こえてくるのは、真実の愛とは何か?どこにあるのか?を歌うリリック。平易な言葉を用い、伝わりやすさを重視している。幼稚な表現("I'm In Love With Love")や使い古されたモチーフ("Looking For Somebody (To Love)")がチラホラあるし、これまでのような時代を撃ち抜く表現が無いのは寂しくもあるが、一段上の人気を獲得する為の特効薬と思えば理解は出来る。
野心に満ちた過去の傑作群を前にすれば最高傑作とは言い難いし、そもそもそういう性格のアルバムではない。しかし、膨らみ過ぎたバンドの世界観を整理すること、新規ファンを獲得すること、コンパクトなトータルアートを作ること、それら三つの目的を同時に達成してみせた時点で、見事な作品と言える。
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日本盤CDのボーナストラックは、"All I Need To Hear"のデモ。ピアノの弾き語り。しっとりと本編を締める。アルバム最後の言葉が"Tell me you love me, that's all I need to hear"で終わるのは本作らしくて好き。