展覧会をつくりあげるプロセス:展覧会の企画ができるまで
日本だけでもたくさんの美術館があって、山ほどの展覧会がありますよね。
少し古いデータになるますが、日本政府が発表している社会教育調査の統計によると、令和3年3月時点での日本国内のいわゆる美術館と私たちが呼ぶ施設の数は、1,061施設です。
仮に1施設で年間3つの展覧会を開催しているとすると、日本国内だけで3,000種類以上もの展覧会が1年間で開催されていることになります。
それでは、これだけの数の展覧会は、どのように企画され、企画されるまでにどのようなプロセスがあるのでしょうか?
展覧会の種類
以前の記事「キュレーター ってどんな仕事?」でも少し書いたように、キュレーターと言っても、美術館で勤めてる人、インディペンデントで働いている人、新聞社の文化事業部で働いている人、企画会社で勤めている人など様々です。
そして、このいろんなキュレーターたちが、美術館で開催される企画に携わっています。
今回は美術館という施設を基準にするとわかりやすいので、ここでは美術館で開催されている展覧会を見てみたいと思います。
たとえば上野にある国立西洋美術館、西洋美術館などを思い浮かべてみてください。
企画・運営側的な視点で、いくつかの種類があります。
いろいろなパターンがありますが、ざっくりいうと以下の3種類に分けられます。
美術館のコレクション展(収蔵展)
その美術館が所有している収蔵品で構成される展覧会。その美術館に所属している学芸員が、自身の企画テーマに基づくいて、収蔵品の中から出品作品を選び展示します。美術館独自の企画展
その美術館に所属している学芸員が企画し、他の美術館などから作品を借りたりして、収蔵品以外の作品も含めて構成されます。美術館以外の会社による企画展
美術館所属の学芸員が企画するのではなく、美術館は展示室という箱を企画会社や新聞社に貸し出し、彼らが企画した展覧会を開催する。(この場合、企画する会社が美術館に展示室のレンタル料を支払います。)
これらをどうやって見分けるか?というと、コレクション展の場合は、チラシやポスターに、コレクション展もしくは収蔵品展と書かれています。美術館独自の企画展か、新聞社や企画会社の企画展か、を知るためには、主催者が誰になっているかを見るとわかります。
美術館独自の企画展の場合は、主催者が美術館のみになっているのがほとんどです。
そして印象派展など、たっっっくさんの人が入る展覧会は、実は多くは新聞社が主催になっています。また新聞社が主催ということは、広告料をかけずに自社の新聞で宣伝できるなど、新聞社ならではの広報展開もできます。
何年前に企画する?
何年前くらいに企画書を作るかというのは、美術館や会社によって異なりますが、おおよそ2〜5年前くらいが多いと思います。
5年後なんて世の中がどうなってくるのかわからないですが、それでも5年後の社会をイメージしながら企画書を作ります。
また会社や美術館によっては、館長など上層部が企画を決めて、学芸員がそれを実現させる、というケースもあります。
私はいちキュレーターなので、キュレーターや学芸員が企画を作るケースをご紹介できたらと思います。
先程は、誰が企画・運営するのか?という視点で展覧会の種類をお伝えしましたが、企画の内容でもいろんな種類があります。
収蔵品だけで構成するコレクション展なのか?物故作家の個展なのか?生きて今活躍している作家の個展なのか?いろんな作家を含んだグループ展なのか?
そしてどんな種類の内容であっても、企画が決まってから、それを実現させる実務的な準備には少なくとも1〜2年かかります。
なので、どんな展覧会をやるのか企画を出すのは遅くとも1〜2年前くらいには決まっていないと大変という印象です。
もちろんフェスティバルや小規模な展示、思いがけず予定していた展覧会がキャンセルになって(2020年頃のコロナパンデミック時は、これがとても多くて美術業界も大変でした…)、急遽代わりの企画を考えなければならないという場合は、もっとぎりぎりに決まる場合もあります。
余談になりますが、コロナパンデミックによる展覧会のスケジュール調整はとても大変で、2021年までに開催されるはずだった展覧会が去年2023年でほとんど何とか開催できたようだという噂も聞きます。
何が大変かというといろいろありますが、いつ航路が復活するかわからないので見通しが立たない。海外から関係者が日本に来ても、何週間か隔離されなければならない。立っても輸送費の高騰によって予算の見直し。そして世界中のどの美術館もリスケジュールだったので、作品の借用をお願いしていた美術館が、他の美術館への貸出などと重複していないか、スケジュールが変わっても借りられるか、などなどです。
予期せぬパンデミックがあると、準備に2年、調整に2年…ですね。
企画書作成時にどんなリサーチをする?
これは本当にキュレーターによりますので、私の場合を書いていきたいと思います。
まずは今私が生活している社会において、世の中がもっとこんなふうになればいいなとか、そのために作品を通してどんな新しい視点をもたらすことができるかな、と常に漠然と考えていると思います。
もしくは、自分の専門的な分野の中で、専門的にも一般的にも、この事実ってあまり知られていないなということがあれば、その事実をお見せすることで新たな視点をもってもらえないか、と考えたりします。
そのためにも世界的な動向を意識したり、読書をしたりして、インプットする時間を作っています(これは展覧会のためにやっているというよりは、休みの日にやる趣味のようなものです)。
そしてその企画テーマ的なアイディアを考えると同時に、どんな作品があるかをリサーチします。
現代作家でこんなおもしろい作品を制作しているアーティストがいる!とか、この美術館がこんな素晴らしい作品を持っている!お借りしたい!などです。
場合によっては、企画書を作る段階で、所有者に作品を観せていただいたり、作家さんのアトリエを訪問したりします。
また作品リサーチのために展覧会鑑賞は頻繁に行います。私の場合小さなギャラリーなども含めると、年間約100本の展覧会を鑑賞していますが、これは本当にキュレーターによって異なり、展覧会よりも文献を多くあたる人もいます。
展覧会鑑賞は作品のリサーチだけではなく、展覧会の構成や展示の仕方も勉強になります。たとえば、こんな壁の色きれいだなぁとか、この展示ケース美しくて資料が見やすいなぁとかてす。
展覧会はどんなに面白い企画テーマを練り上げても、作品がないと展覧会は実現しません。
江戸時代のデジタルメディアアートという展覧会を企画したとしても、作品そのものがないと展示は成立しないですよね(これはあくまでも例なので、メディアアートの定義によっては可能かもしれませんが…)。
ある程度上記の内容が固まり、予算感もわかってきて、実現できそうという感じになってきたら、企画書そのものを書きます。
ひとつの企画書を作るのは短絡的にできるものではなく、展覧会のフレームづくりをしなければならないので、企画書づくりはいつも苦戦します。そして企画書を自分の所属している会社なり美術館なりに提出して、通れば本格的に準備スタート!ということになります。