地方のスモールビジネス備忘録。地域課題解決型事業における「商品」の捉え方。
地域課題解決型の事業によくある悩みとして、利用者からの売上だけでは費用が賄えず事業継続が難しい、という問題があります。
この問題の解決策として、商品の魅力を高めて販売数や単価を上げる方法や、寄付などによる資金調達を活用する方法があるかと思いますが、実際はどちらも簡単ではありません。
持続可能なビジネスモデルを描くために、まずは自分たちがやろうとしている事業、つまり提供しようとしている「商品」と「顧客」の捉え方を見直してみると、次の一手が見えてくるかもしれません。
※社会課題解決型のビジネスとして「ソーシャルビジネス」「社会起業」などの言葉がありますが、今回は地方の社会課題解決型のビジネスという意味で「地域課題解決型」という言葉を使用したいと思います。
自分たちの「商品」の範囲は?
地域課題解決型の事業を始めようとするときに、ビジネスモデルやマネタイズといった言葉に縛られてしまうと、モノやサービス自体でお金を稼がねばと考えてしまうことがあります。
大事な意識ではありますが、地域課題解決を目的とする事業の場合は、モノやサービスの売上だけで費用を賄っていくのは難易度が高いケースが多いです。もしもビジネスになるなら、他の誰かが既にやっているはずです。
そんな難易度が高そうな事業を形にしようと考えた時に必要となるのが、自分たちの商品は何なのか、という視点です。そして、商品にお金を払う人を顧客と定義すると、地域課題解決型の事業においては、商品の利用者は、実際は自分たちにとって本当の顧客では無いかもしれません。
例えば、ある地域で耕作放棄地の問題が課題となっていて、体験農園の実施による耕作放棄地活用を通じて問題を解決したいと考えたとします。
その際に、この事業の商品を「体験農園」、顧客を「体験農園の利用者」と捉えてしまうと、事業継続に必要な費用を賄うだけの収益を出すのが難しくなってしまうことがあります。
これに対して、自分たちの事業の商品を「地域の耕作放棄地問題の解決」、顧客を「その課題が解決したら嬉しい人たち」と捉えると、本当にお金を払うべき人たち、つまり本当の顧客が誰なのか、見えてくると思います。
事業の継続性を比べてみると
ある事業の持続可能性について考えるとき、その事業の「商品」と「顧客」の捉え方が重要になります。
耕作放棄地の課題解決を目的とした体験農園事業を例に、捉え方が変わると何が起こるのか見てみたいと思います。
①「体験農園」を商品と捉えた場合
体験農園を商品、利用客を顧客と捉えた場合は、自分たちの事業を次のように認識していることになります。
「体験農園」事業
(1)商品
体験農園
(2)事業者
自分たち
(3)顧客
体験農園の利用者
次に、この事業の継続可能性について考えてみたいと思います。
耕作放棄地1か所あたりの体験農園への参加見込み数を年間20組とすると、収支計画は次のようになります。
※便宜上、項目を単純化し、本来は費用に計上すべき事業者の人件費を利益と表現しています。
「体験農園」の収支計画
(1)売上
20万円(1万円×20組)
(2)費用
7万円(種苗、肥料、謝礼など)
(3)利益(事業者の人件費)
13万円
仮に、事業継続に必要な人件費を年間300万円(100万円×3名)とした場合、体験農園を年間で 24件 実施する必要がある。(※300万円 ÷ 13万円 ≒ 24件)
②耕作放棄地問題の解決を商品と捉えた場合
続いて、地域における耕作放棄地問題の解決を「商品」、その課題が解決したら嬉しい人たちを「顧客」と捉えた場合は、次のようになります。
「地域の耕作放棄地問題の解決」事業
(1)商品
地域の耕作放棄地問題の解決
(2)事業者
自分たち
(3)顧客
- 行政(課題解決ニーズ)
- 地域企業(地域貢献やPRのための寄付・協賛ニーズ)
- 地域金融機関(地域貢献やPRのための寄付・協賛ニーズ)
- 地域団体や住民(地域貢献やPRのための寄付・協賛ニーズ)
- ボランティアスタッフ(地域貢献や自己実現のための労働提供ニーズ)
- 体験農園の利用者(利用ニーズや地域貢献ニーズ)
こちらについても、事業の継続可能性について見てみたいと思います。
さっきと同様に、耕作放棄地1か所あたりの体験農園の参加見込みが年間20組とします。さらに寄付や協賛金の見込み額として体験農園1か所あたり年間10万円を加えると、次のようになります。
「地域の耕作放棄地問題の解決」の収支計画
(1)売上
- 20万円(1万円×20組)
- 10万円(寄附・協賛金など)
(2)費用
7万円(種苗、肥料、謝礼など)
(3)利益(事業者の人件費)
23万円
事業継続に必要な人件費が年間300万円とすると、体験農園を年間で 14件 実施する必要がある。(※300万円 ÷ 23万円 ≒ 14件)
このように、商品と顧客の捉え方を見直すことで、24件から14件へと事業継続のハードルが下がる形となりました。
実際のケースでは、①商品やサービスの売上、②寄付・協賛金・行政からの事業委託による売上、③費用、それぞれのバランスを調整しつつ、地域課題をどの程度解決できそうか考えながら事業を作っていくことになります。
共感の熱量
自分たちが解決しようと思っている地域課題について、「みんなも同じくらい課題を解決したいと考えている」という状況は稀で、同じ地域課題でも人によって熱量はまちまちです。
そのため、地域課題解決型の事業を行う方が最初にやるべき重要な仕事は、課題と事業に対して同じ熱量で共感してもらうことなのかもしれません。
事業に対する共感が生まれることで、周囲と具体的な未来のイメージを共有しながら「参加者の一部」という感覚で、応援の形も具体的になっていくのかなと思います。
そのための手段として、商品と顧客の捉え方が少しでも事業のお役に立てば嬉しく思います。
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