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「現場を信じる」財政改革を実行・今村寛さんに聞く「ビルド&スクラップによる現場の自律経営」-財オタインタビュー③

予算要求や査定を巡り、財政課と原課は何かと対立しがちです。
担当する原課の要求と財政課の上役との間で板挟みになり、悩んでいる財政課の方も多いのではないでしょうか。
今回は、枠配分予算の仕組みを活用することで各局と連携し、事業のビルド&スクラップに成功した福岡市の今村寛(いまむら・ひろし)さんに、そのポイントや経緯をお聞きしました。

今村寛さんが財政課の苦悩を描く「自治体よもやま話」もnoteで発信中です!

財政係長時代の一件査定に辟易

――今村さんが財政課長だったのはいつ頃ですか?

平成24~27年度の4年間です。
その前に平成14~18年の5年間、財政課係長をしていました。

――今村さんが係長のときは、予算編成はどのような方法をとっていたんですか?

係長の1年目は完全に一件査定で、すべての事業をヒアリングし、課長を含めた15人で全事業の経費の積み上げを費目単位で査定していました。
一般会計だけで全3,000事業ありますから単純に割り算すると1人あたりの査定件数は200事業です(笑)。

枠配分予算への転換

課長になって枠配分に変えたのは、係長時代の5年間が大変だったからです。
財政課が査定することで事業の当否はもちろん、その手法も金額規模も決まるわけですから、ヒアリング自体も経費の要・不要の判断も非常にしんどかったです。
こちらで数字を全部決めて返すのは責任重大で、間違いもできません。
だからものすごくストレスが溜まりました。
係長時代の2、3年目は、枠配分予算にしようとした過渡期でした。
枠配分にするために他市のことを調べたり、消費的経費のうち事務費(臨時職員の賃金や印刷消耗費、備品代など)だけ前年度の額の範囲内にしたりしました。
個別の額を積み上げるのではなく、局全体の事務費が去年と同じ金額になればいいという、部分枠の考え方です。
政策に関わらない軽微な性質の経費については枠配分で構わないというやり方を、平成16年度当初予算から始めました。
ただ、そういう経費はそれまでも「前年同」などと書いていたものなので、実際には大きく変わったイメージはありませんでした。
相変わらず「いるものはいる」と「ない袖は振れない」の争いがずっと続いていたのですが、平成17年の当初予算から枠予算を拡大することになりました。
そこで当時の横浜市がやっていた枠予算について、事前に横浜市にやり方を聞きに行き、調査結果を枠の配分に反映するやり方を始めました。

――横浜市と福岡市の違いは何だったんですか?

横浜市は経費の性質で分けるのではなく、消費的経費を枠にし、投資的経費についても委託料や工事費など、ずっと続いているものは枠にする、という考え方でした。
これなら局に自律経営を促せて、我々も本当に必要なことだけを査定できると思いました。
しかし、平成16~18年当時の横浜市は、経費の性質で分けるのではなく、消費的経費を枠にし、投資的経費についても委託料や工事費など、ずっと続いているものは枠にする、という考え方でした。
これなら局に自律経営を促せて、我々も本当に必要なことだけを査定できると思いました。
しかし、平成16~18年度までの3年間枠予算をやってみたのですが、枠の外で要求していいルールが多すぎて、その財源を確保するために枠の事業にものすごいシーリングをかけなくてはならなくなりました。
そうすると、枠の外でたくさん予算を要求してきて、シーリングをかけようしても継続的なものだから切れないということで、シーリングそのものに反発してくるわけです。
結局、枠を守れないので、守れない分の予算を全部財政課で引き取って、枠に入れる作業を局の代わりにする、ということをやっていました。
この時、自分がおぼろげに思っていたのが、枠の外で要求しているものを枠の中に押し込むというもので、いわば枠外要求ルールを極力排除することでした。
そのことを課長などに進言したのですが、制度を創設した当初だったので
「しばらくはこれでやっていこう」
と判断され、結局3年間はそのままの枠予算の形でやりました。
5年目の冬の予算編成が終わったとき、後輩たちに
「俺はもう二度と戻ってこないけれど、もし戻ってきたら枠予算を完全なものにして、査定のない財政課を目指す」
と、紙に書いて渡しました。
遺言ですね(笑)。
そうしたら何の因果か、5年も経ってから課長として戻るわけです。
それまでの5年は外にいたので、自分なりに、その当時、財政課が作っていたルール内で色々工夫していたのですが、やはり財政課のルールそのものが窮屈だったんです。
なので、財政課に戻る辞令をもらったときに
「これは自分で何とかしなきゃダメだ」
と思いました。

「ビルド」が先で「スクラップ」は後

財政課長に着任したときは、ちょうど行革プラン作成のために外部の有識者をメンバーとする第三者委員会を立ち上げるタイミングでした。
その委員会の議論から不必要な施策事業の見直し提言を受け、これを反映する形で予算編成を進める、というのが前年度の課長からの引継ぎ事項でした。
着任直後の5月にはその委員会が立ち上がり、毎月1回の開催スケジュールや、中間報告と最終報告のスケジュールも大体できていました。
この委員会でのねらいは
「福岡市で見直さないといけないのはこことここですよ」
というのを外部から言ってもらい、担当局にプレッシャーをかけることでした。
このため、1人あたりの行政経費が他の自治体に比べて高い項目をいくつかピックアップして見直しの議論してもらおうと思い委員会の座長のところに持っていきました。
この前提として、このまま何も見直しを行わなければ、今後4年間で830億円の財源が不足するという状況があったため
「不足財源と見直す事業をセットで議論してくれませんか」
と言ったんです。
そうしたら
「見直しを議論するのはいいけど、この足りなくなると言っているお金は、来年以降何に使うの?」
と聞かれました。
それに対し
「政策的経費が足りなくなります。マスタープランを今作っていて、そこに掲げる重要な事業を進められなくなります」
と説明したんです。
そうしたら
「その具体的な中身は?」
と聞かれたので
「いや、それは今マスタープランを作っていますからその中で…」
と答えたら
「アホかお前は!」
と言われました。
要するに、見直される側からすれば、何をやるために見直すのか示されないと、今やっていることをタダで見直すはずはないということです。
それで資料も全部やり直しと言われて、委員会を1回飛ばしました(笑)。

――ここで当初のストーリーが崩れたんですね。

そうです。
外部の提言で見直し弾を出してもらうストーリーが完全に崩れました。
それで企画部門と協議して
「マスタープランの重点事業は今出せる?」
と聞いたら
「出せるわけないやん!」
と言われました。
今まさにヒアリング中で、年内から年明けにかけて予算編成と一緒に出していくイメージなので、それだけ先に出すことはできません。
でも、理論の構造としてビルド&スクラップになっていないといけません。
スクラップを先にして、見直し弾をこれだけ出せたらビルドができるという流れではダメだと座長に言われてしまったので、自分がもともと持っていた枠予算の概念を使って
「ビルドの分まで枠で与えた上で、スクラップしないとビルドできません」
という形にしました。

――この出来事からそのようなアイディアが生まれる発想力がすごいです。

元々、元足立区職員の定野さんがやっていた包括予算制度を勉強していたんです。
財政課の係長を卒業し、半年間研修で福岡を離れていた平成20年6月頃、定野さんのところに直接伺った際、定野さんから
「自分で何かを見直さないと新しいことができない枠組みにすればいいんだよ」
と言われ、自分が枠予算をやるならそれだなと思いました。
そこで、行革委員会の座長から言われたことと、定野さんから言われたこと、そして元々自分がやろうとしていた枠予算の概念が一つになって
「枠を少し多めにあげるから、その代わり枠外で要求するルールを絞らせてもらいます。何かやりたかったら、今の枠の中で見直して新しいことをやってください。当然、今までやってきたことをそのまま続けても結構です」
という形にして、初年度は少し多めに枠のお金を配ったんです。
すると、皆頑張って枠の中に入れてきました。

――なるほど。初年度は枠に入りやすくして制度を浸透させていく工夫をされたんですね。

そうです。
私と当時の財政局長で全局長のところに行脚して、枠対象経費の拡大について説明しました。
当時の市長が言っていた「優先順位の最適化」ということも踏まえ
「全部枠で渡すけれど、少し足りないと思うので、この際優先順位の見直しをしてください」
と各局の局長にお話しして認めてもらいました。
全体の中で順位をつけて、一番下は切っていく、あるいは下の方の経費を圧縮していくということです。
そして平成24年の秋、25年度当初予算編成から今の予算編成の仕組みにしました。
また、局長への説明と全く同じタイミングで、職員向けの財政出前講座も始めました。
ボトムに対しては出前講座をやって、トップに対しては局長行脚をやって、仕組みとして枠予算、裁量の拡大をやったということです。
また、裁量拡大をやっても各局の財務係がうまくできないと言うので、財政課の各局担当の係員が初年度は手伝ってあげました。
ちゃんと枠に入るまで「寄り添い型」でやるようにしたのです。
各局に出向いて何回でもやり取りをして、局の中での議論が進むようにサポートしようと、各局を担当する財政課の職員に指導しました。

財政課が各局をサポートする際のポイント

――局内で議論が進むよう、どのようなサポートをされたんですか?

特にツールがあるわけではなくて、どこで悩んでいるかポイントがあるんです。
例えば
「見直しができない大きな事業の塊があるので、そのしわ寄せを食らっています」
というときに
「じゃあいっそのこと、この塊を枠の外で要求できるように理屈の整理をしようか」
といった感じで財政課ができることを提案する。
あるいは全体的な優先順位をつけにくいものがあるときに
「こういう考え方で計画を作り、事業の優先順位を立てられるようにしたらどうですか。今年無理なら、来年までに優先順位を作る議論をちゃんとしてください。今年はこれで受け取りますから」
というように、貸し借りをすることもありました。
議論を進めるには、時間やプロセスが必要な場合があり、それを予算編成の中だけでやると軋轢も起こるので、来年までの宿題にしたり、今年までは枠の外でやっていいと認めたり、いくつかバッファーを作ってあげていました。

――サポートする財政課職員自身も新しい制度に変わって引っ張っていかないといけないという部分でスキルが求められたと思います。財政課の職員をスキルアップする仕組みなどはあったのでしょうか?

もともと私が係長時代にやっていたことを考えると、必要な事業・施策にお金をつけて、不必要なものを切っていくスキルというのは、自然に身に着いていくものです。
それを各局の原課や財務係との対立構造の中でやっていくのか、それとも一緒に考えるのかで全然アウトプットが違います。
私も係長を5年間やっていて、最初の1、2年は対立構造でやっていたけれど、それでは情報も取れないし、査定結果を伝えるときの軋轢もひどくなります。
ですので、どうやったら局のやりたいようにできるか、財政課長に局の言い分を認めさせられるかという気持ちで、原課に寄り添うように仕事をすることが大切です。
もともと財政課の係長や担当者は、枠予算でなくてもそういうふうに仕事をしている人が多いんです。
担当する局のやりたいことを実現させるため、どうやったら財政局長を突破できるのかを考え、そのために
「こういう理屈がいるからこういう資料を用意して」
とか
「これが絶対に必要だと思うならこういうふうに整理して」
といったことを伝えていきます。
――同じスキルでもコミュニケーション方法を変えることで現場との関係性が変わってくるんですね。今日はありがとうございました。

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新しい自治体財政を考える研究会
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