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大衆和牛酒場コンロ家 新橋店

新橋駅烏森口から
①〈徒歩〉…5分
②〈ダッシュ〉…2分
③〈冬。別れ。私は一人となった。季節も相まって、ひどく寒い
「妻と子供がいる」「すまない」
理由と謝罪と婚約者の定義について想いを巡らせ、平らになったお腹を右手で優しく撫でる。まだそこに何かがあるように、優しく、撫でる。

新橋駅徒歩5分。交通量の多い、片側3車線の歩道を歩き、この先の目的地に想いを馳せる。行く当ても、待ち人もいない。時折視界に入る家族連れに舌を打っては、ひどく気が滅入る。ついには眩暈がし、その場にうずくまる。まるで真下へと落ちていくようだ。
小さくなって歩道を眺めていると、私を呼ぶ声がした。まだ小さな子供だ。赤ん坊といってもよい。ベビーカーに揺られ、変幻自在な表情を見せるその生き物をじっと見つめる。

「マぁマ」
私を呼ぶ
「まーまぁあ」
わたしをよぶ
わタしおよブ
ワタシヲヨンデイル

泣き顔も、くしゃりと笑うその顔も、それはそれは愛しく感じる。
なるほど。私が今日ここへ来たことには、確かな意味があったのだ。
まばゆい光に導かれ、私は目の前を通り過ぎる母子を呼ぶ。そして、そのまま優しく子を抱きかかえ、白線の向こうへ大きく投げ込む。

ふわりふわり

羽が生えたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。よかった。独りぼっちになったあの子も、これでもう寂しくないでしょう。無垢な子供たちは、これにて「仲良く」天使になれるのだ。
悲鳴と叫び声、クラクションを遠くに、私はにっこりと泣き叫ぶ母へ礼を述べる。私の婚約者を、奪った女に

顔に跳ねた赤紫の染みを手の平で拭い、駅へと向かう。途中、ワイン樽の並んだ店が気になった。最近オープンしたようだ。
【50種ワイン飲み放題】
そう書かれた黒板があった。自然と入口へと足が向かう。
「いらっしゃ…い…ませ…。な、何めい様、で、でしょう?」

独りです
ずっと

「し、しょ少々、お待ちくださぃ」
そう言い奥へ駆けていく。全く、不躾な店員だ。名札には高橋と書いてあった。
店内のワイン樽を横目に、手提げのバックからお気に入りの古い手鏡を取り出す。映るのは綺麗な赤に彩られた私だ。

美しい

さぁ、乾杯しましょう。
深く、暗く、透明な赤。
私はそれを、まるでワインのようだと思った〉…約10分

新橋駅から344m


名 称:大衆和牛酒場コンロ家 新橋店
所在地:105-0004 東京都港区新橋3-2-7 恭和ビル 1F
電 話: +81362057979

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