吉村直美が語る名曲物語
音楽と旅#4
クリスマスの夜空へ
2021年12月11日(土)西早稲田のトキョーコンサーツ・ラボで開催される吉村直美ピアノリサイタルに先立ち、取り上げる曲の解説を吉村直美さんご本人にしていただきました!これを読んで興味持っていただけましたらぜひ演奏会にお越しください!
モーツァルト「きらきら星変奏曲」K. 265
テーマは、誰もが知る美しいメロディですが、実は、フランスのシャンソン・オペラ「ああ、お母さん聞いて」が原曲で、恋する乙女が何も手が付かず、母親に悩みを打ち開けているというお話とも言われています。どこまで主人公に寄り添えるかわからずも、天才モーツァルトが大変美しい音楽として残してくれたお陰で、演奏しているとそんなエピソードも忘れそうなほどに、美しく愛らしい曲です。
国によって名付けたれた題名が異なり、日本で言われている「きらきら星」は、米国の英語からの訳といわれています。ドイツ語では、直訳すると「明日、サンタクロースがやって来る」と題されており、子供達が大好きなプレゼントを抱えてくる歌詞がつけられています。ドイツではまさにクリスマスの曲として親しまれています。
ホルスト「惑星」より、<火星> <木星> ピアノソロ編曲版
イギリス出身のホルストによる「惑星」は、オーケストラのために作曲され、全部で7つの星がテーマとなっています。ホルスト自身、作曲活動がうまくいかず、スペインを旅していたときに影響を受けた占星術に着想を受けて作曲したと言われています。
▼火星「戦争をもたらす者」
作品の1番目となっている<火星>は、「戦争をもたらす者」と題されている通り、低音部は常に5拍子のリズムの中で三連符が警告音のように鳴り響きます。三連符といえば、ベートーヴェンが交響曲「運命」の冒頭のテーマとして用いており、難聴という苦しみへの嘆きや宿命に対する問いかけや挑みだという解釈もありますが、この作品では、人間の弱さがもたらすの宿命や警告のようにして、鳴り響きます。不協和音の連続と低音部にトレモロが多く登場することで、迫り来る危険を感じさせながら徐々に激しさを増し、最後は、不協和と三連符の警告で終わるかと思いきや、世界の始まりを象徴するとも言われる調性のハ長調で突然締めくくられます。人智を超えるような勝利の衝撃で終わります。
▼木星「歓喜をもたらす者」
英訳のJUPITER(ジュピター)の名で親しまれており、原曲の「惑星」で最も好まれている作品の一つです。冒頭から登場する軽快に早く鳴り響く16分音符は歓喜に溢れており、テーマとなるモチーフは、常に上行の形を取り、ポジティブ感満載の心情にさせられます。曲の途中では、イギリスの愛国歌、またイングランド国教会の聖歌となっている有名な旋律が登場します。日本では、ドラマのテーマ曲に用いられたり、ポップミュージックのヒット曲にもなるほど聴き馴染みのある美しいメロディーです。構成は、大きく2部に分かれ、後半はさらに高い音域に転調しながら、早さを増し、爆発的なクライマックスを迎えます。宇宙で星の誕生の奇跡を味わえるような、輝きに満ちた作品です。
プログラム後半は、宇宙から地球へと繋がります!
バッハは、作曲技法において、綿密な秩序の中にも精神的な美しさを感じさせることから「小宇宙」という代名詞も名付けられています。バッハの出身地の言語であるドイツ語での表記は「Bach」となり、日本語訳は「小川」となりますが、ドイツでも「小川どころか、宇宙に流れ込む大海のようだ」と称賛された記述もあります。
バッハ トッカータ BWV 914 ホ短調
今回お届けするのは、トッカータです。トッカータとは、イタリア語の語源から成る「触る」という意味です。ピアノの前身とも言えるチェンバロが主要な鍵盤楽器の一つでもあった時代、コンサートの本番中に調性を確かめるために、「触り」弾きを音楽的に奏でていたこyとから、派生しているようです。
曲と曲の合間に、演奏者が各々の感性のままに即興演奏をしていたことから、バッハの時代では、感情がほとばしるような意味合いを持つようになっています。この曲のテーマのモチーフは、譜面上で音を線で繋げるとクロスが浮かびあがり、十字架が見えてきます。十字架は、一説によると、自分の弱さへの戒めと許しを請い願う象徴ともされることから、葛藤が繰り広げされる作品です。最後に現れるフーガは、〈逃げる〉を意味するラテン語fugereに由来し、〈遁走曲〉などと訳すこともありますが、キリストが十字架に掛けられると公表されたときに、愛弟子達が恐れて<逃げた>様子を表現したことが起源と言われています。この曲の最後も、一番信頼を寄せていた弟子達が逃げてしまう悲劇のフーガが登場し、最後はその裏切りが許されるが如く、突然長調へと転調し幕を閉じます。
バッハ(ケンプ編曲)「主よ、人の望みの喜びよ」
クリスマス曲と広く知られ、馴染みあるメロディーで形成されている作品です。バッハの教会カンタータ第147番「心と口と行いと生きざまにより」に含まれる「コラール」です。「コラール」とはプロテスタント教会で礼拝のときに会衆が歌う賛美歌のことで、「教会カンタータ」は礼拝において、その日の説教のテーマとなる福音書などの朗読と説教の間に演奏される、メッセージ性を持った音楽です。この曲は、クリスマス直前の日曜日のために作曲された作品を改定した後、「聖母マリアの訪問の確日」に初演されたことから、以後クリスマス曲として定着するようになりました。キリストを身ごもったマリアの受胎の感動と告白が、始終続く3連符のリズムによって、喜びのモチーフとして表現されています。
グリーグ ピアノソナタ ホ短調 Op. 7
グリーグによる言葉「私は、自然が歌うのに耳を傾け、ノルウェーの松の芳香を全音楽会の演奏会場に届けるように努めた」のとおり、北欧ならではの独特な自然の美しさ、時に、脅威までも思わせる作品です。テクニックも難しく、めったに演奏されない作品と言われることもあります。
第1楽章 アレグロ・モデラート
冒頭に現れるテーマのモチーフは、下降系となっており、曲の初めから悲劇を感じされられます。同時に、颯爽と常に流れるような音形と指定された速さが、ノルウェーの自然を駆け抜ける風の印象をもたらします。過去の思い出を回想するような美しいハーモニーとメロディーが特徴的です。
第2楽章 アンダンテ・モルト
まさに、静かな夜空に煌めく数々の星を思わせる楽章です。「はじまり」を意味するハ長調が調性となっており、自然をありのままに感じる様子が伺えます。途中で、感情が高揚が現れ、北欧のフィヨルドをゆっくりと味わうようなシーンが登場します。ドイツ・ライプツィヒで学んだグリーグですが、この楽章のハーモニーやメロディから、留学先で滞在していたシューマンの「幻想曲」を思わせる箇所が出てくることから、多大な影響を受けたことも見受けられます。
第3楽章 アラ・メヌエット・マ・ポコ・ピウ・レント
重厚かつ素朴さを感じさせる曲想は、オーストリアの作曲家シューベルトのメヌエットも思わせるような楽章です。メヌエットは、本来はエレガントな舞曲ですが、最初と最後は、重々しい悲しさに溢れています。突然、現れる明るい中間部は、闇夜に温かく輝く星を感じさせます。
第4楽章 フィナーレ(モルト・アレグロ)
自然の雄大さのみならず、北欧の森で妖精が踊っているような軽快な楽章です。トムテという名の北欧の妖精は、「小さく繊細で、そのため気性が激しかったとされるが、性格は優しく温厚」なのだそうですが、この楽章では、そのキャラクターがぴったりなまでに表現されています。付点8分音符のリズムは、小さく軽快な足踏みとなり、途中気性が爆発するような場面もありますが、最後は、夜空に輝く星へ喜んで戻っていくようなストーリも見えてきそうな楽章です。
吉村直美ピアノリサイタル 音楽と旅 #4
クリスマスの夜空へ
日時:2021/12/11(土) 14:00開演
会場:トキョーコンサーツ・ラボ (東京都 西早稲田)
▼プログラム
モーツァルト:きらきら星変奏曲
ホルスト:「火星」「木星」
J.S.バッハ:「主よ、人の喜びよ」「トッカータ BWV914」
グリーグ:ピアノソナタ Op.7
▼チケット
https://t.livepocket.jp/e/pya6n
▼吉村直美(ピアノ)
10代でドイツへ渡り、ロストック国立音楽演劇大学に留学。同大学を経て、ドイツ・ハンブルグ国立音楽大学を最優秀の成績で卒業。同大学在学中、ロータリークラブ、ブクステフーデ、シュターデの3団体により全額奨学生に選ばれる。17歳の時に、指揮者スタニスラフ・ガヴォンスキーのもとポーランド・国立クラクフ交響楽団と共演。その後、BBCドイツ放送局を始め、北ドイツ国営放送曲、ドイツ・ヴェレ・ラジオ放送局等のテレビ・ラジオ放送による演奏出演をする。ソロ並びに室内楽奏者としても、これまでにドイツ、フランス、ベルギー、チェコ、スウェーデン、アメリカにて演奏する。
ハンブルグ・スタインウェイ、ハンブルグ文化庁日独国際文化交流、国境なき医師団主催・国際チャリティー文化祭等の主催公演に出演。国内では、紀尾井ホール(日墺文化協会主催)、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」音楽祭(東京丸の内エリアコンサート)、すみだトリフォニーホール(国際芸術協会主催)等のコンサートに出演する。
また、駐日ドイツ大使公邸ピアノコンサート(駐日ドイツ連邦共和国大使館主催)、各地行政機関が企画する国際交流における催し物に演奏出演するなど、日本と海外の架け橋となる国際交流にも貢献する。
2007年より、ハンブルグ・ヨハネス・ブラームス音楽院ピアノ主科、伴奏主科にて教鞭を取る。2008年、ドイツのレコード会社アーティスト・エディション・レーベルより、ピアノソロCDを初リリース。2017年、Concert Portよりセカンド・ソロアルバム「夜の夢 静寂と情熱」をリリース。
ハンブルグ・ヨハネス・ブラームス音楽院客員教授。スタインウェイ・アーティスト。
オフィシャルサイト ttp://naomi-yoshimura.jimdo.com
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