月子と太一6
いいんじゃない?お花フリフリ。似合うよ。
昼休み中に送ったらしい太一からのメールで、月子は二度寝から目覚めた。
起き抜けの頭で、この前ホテルで試したドレスの写真を、母が太一に直接メールしたのだと理解すると、月子は告げ口されたこどものような気持ちになった。
「ま、いいけど。」
と、誰に対してかわからない独り言を呟くと、ベッドから飛び起きその場で全裸になって浴室へ向かった。
何も予定のない日は、太一を送り出した後、もう一度ベッドに潜り昼頃起き出して夕飯の買い出しに行くのが、このところの月子の日常だった。近所のスーパーへ行くこともあれば、バスを乗り継いで大型のショッピングモールへ出向くこともあり、行き先は毎日その日の気分でバラバラだった。
頭から暑いシャワーを浴びながら、今朝見たフリーペーパーに載っていた「駅弁フェア」を思い出し、駅前のデパートだな、と月子は今日の行き先を決める。
軽く化粧をし、バスの停留所へ急ぐと、ちょうど駅前行きのバスが着くところだった。タイミングの良さに気を良くすると、月子はバスの窓に鼻を付け、流れる景色を楽しむ。雲のない青空が清々しく、ランチは外で食べよう、とワクワクした気持ちで思った。
デパートの地下へ降りると、駅弁フェアコーナーは主婦層でごった返していた。
月子もその群れに混ざり、目ぼしい弁当を3つ買うと、他の物には目もくれずに、近くの公園へと急いだ。
長万部名物かなやのかにめしを広げ、空を見上げたり、通りすがる人々を観察したりしながら、月子は心底穏やかな気分になった。
太一も来れたらいいのに。と、甘く煮たしいたけを箸でつかみながら、下を向いてニヤついてると、太腿の上に広げた弁当にフッと人影ができた。
まだ半笑いのまま見上げてみると、月子の微妙にニヤついた顔がそのまま固まった。
「…カズシ…」
かつて恋に狂わされた男の名前を呟きながら、久しぶりに名前を口にした、と見当違いな事を月子は思っていた。