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月子と太一3

「月ちゃん、そのドレスがいいと思うわ」
 
月子の母が絶賛するそのドレスは、いかにも少女趣味な、花型のフリルが散りばめられたひと昔も前に流行ったようなドレスだった。

 月子は鏡に映るウェディングドレス姿の自分を見て、さらに視線を自分の胸元から足元まで見下げた。

「これはないんじゃない?」
「ううん、絶対これが、1番似合うわよ」

間抜け面で突っ立っている月子の横で、キラキラと目を輝かせ、頬までピンク色に染めながら、まるで自分が花嫁のように母は意気込んだ。

「やっぱ1番初めに着たやつにする」

溜め息混じりにウェディングドレスを脱ごうとする月子に、お手伝いします、と衣装係の女が慌てて近づく。

「あんな地味なの着たら本番なんて全然映えないわよ」

スマホのカメラで何枚も写真を撮りながら、母は尚も楽しそうに動き回る。
全くあんたって子は、と畳みかける母を遮り、私服に着替えると、「最初のドレスご試着なさいます?」という衣装係の女を無視し、ホテルのロビーへと向かいながら月子は思う。

"太一さんだってあのドレスがいいって言うに決まってる"とかなんとか言うのは目に見えてる。だいたいママは太一を過大評価し過ぎてる。
 
もう何万回と思ってはイラつき、考えては腹が立ちしている事を、飽きもせずまた考えていた。

 喫煙室へ入り壁に寄りかかると、月子は電子タバコを取り出し、不機嫌な動作でそれを咥えた。

 ママは太一を救世主だと思ってる。

その想いは月子をイラつかせ、同時にその通りだと納得せざるを得なかった。

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