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月子と太一2

「コスプレパーティーか仮装大会だろ」
忘れ物市のドレスの話を月子がすると、太一は即答した。
 
月子が2時間かけて作った夕食を食べながら、ビールを一気飲みする太一に、月子は密かに失望した。

「そうかなぁ、カケオチだって絶対」
やけに色の濃い肉じゃがを口に含みながら、やや挑戦的に月子が言うと、
月子はロマンチストだからな。とニヤつきながら太一が返した。

「太一だってロマンチストじゃん。付き合ったばっかりの時なんてさぁ」
「あー、ハイハイ、駆け落ちだねー、駆け落ち。」

誕生日にバラの花をとしの数だけくれたりしたじゃん。
太一に遮られて喉につかえた言葉を、月子は胸の内で呟いた。

 実際、太一はロマンチストで情熱的だった、と月子は思う。
通勤途中の車の中から見たソメイヨシノや、飲み会の帰り道で見つけた満月なんかを、宝ものを分け合うみたいにマメに写真をメールでよこしたり、何でもない日に月子が好きだと言っていた苺のショートケーキを、ホールのまま買ってきてロウソクを立てて見せたりした。

 月子より5つ年上の太一は、自分が仕掛けたサプライズに大袈裟に喜ぶ月子を、いつも満足気に見つめていた。そんな太一を、月子は頼もしく思い、やっぱり自分には年上だ。と、決意にも似た感情を抱いた。

 付き合い始めて一年で結婚を決めたあたりから、少しづつ太一のサプライズは減り、今ではあの時の太一と目の前にいる男が同じ人物なのかと疑うほどだ。

「ごちそうさま。」
ご飯を除いて、全て少しづつ残っているおかずの器を、太一は鼻唄混じりにキッチンへ下げた。
呑気な太一に欺されたような気分になり、月子は密かに舌打ちしながら、色の割に味の薄い味噌汁をすすった。

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