地上の星

雲の中の月は、崩れた卵みたい。
私には、月が、雲の中を動いているように見えた。
雲に覆われてしまって、完全にダメになってしまったけど。

お隣のポーチには、子どもの虫取り網、ホウキ、ちり取り、植物に水をやるホース、三輪車が二台。

何で、うちの方にばかり、植物植えてんだろう？

玄関前の花壇には、水色、黄色、青色のボールも、３個くらい転がってたし。

月は雲に隠れたまま、ぐちゃぐちゃになった黄身みたいになって、沈黙している。

お隣の奥さんの、妙に明るい、ホームドラマみたいな声を思い出す。

彼女は、今、照明達に囲まれて眠っている。

塀につけた照明が四つ、背の高い照明灯が三つ。

不躾に、いつまでも、人んちの庭を照らして。

そこまでして守らなければならないものが何なのか？私にはよく分からないけど。

お向かいのご実家からも、擁護するかのように、明るいオレンジ色の門灯の光が届く。

本物の星達は、雲に覆われて沈黙したまま。
雄弁なのは、人間に息を吹き込まれた偽物の星達ばかりだ。