note de 小説「時間旅行者レポート」その4
衝撃が走った。
F2(フランス国営放送)速報
ついに。ついに人類が「時の壁」を
超える。ミヒャエル・オリバーが
聖なる橋を渡る。
abc(アメリカ国営放送)速報
時間旅行のさきがけ。
彼こそ人類の至宝。
その名はミヒャエル・オリバーだ。
ハリウッド映画も大注目!
NHK(ヤーパン国営放送)速報
ついに!ついに決する。
織田信長に救いに行く日も近い!
本能寺お助けツアーも視野に。
太平洋戦争をも回避するのが
われら子孫の使命だ。
新華社通信(中国国営放送)速報
これは世界を牛耳る兵器になり得る。
なぜならマシンガン一丁で火縄銃の兵士など
赤子の手をひねるより安易だからだ。
その他、各社マスコミが
この人類が到達した功績をたたえた。
しかしそれだけではなかった。
ミヒャエル・オリバーという人物の特集が
なされていたのだ。
「ミヒャエル・オリバーって誰だ!」
「ミヒャエル・オリバー特集」
「幼少のころより頭脳明晰」
「親はしがない町工員」など。
さらに地元有力紙やタブロイド紙などは
さらに辛辣だと聞かされた。
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「学長。
もう、けっこうです」
折れ曲がった躯体を
ボクはソファに投げだした。
「大変、名誉なことだよ。
そうは思わないか。
聞きたまえ。
一寸の光陰軽んずべからず
少年老い易く学成り難し
時は金なり。
これはすべて極東ヤーパンの
格言だ。
君は時間という
むしろマネーにも代え難い
もの以上を得ようと
しているのだ。
時は金なり。
Time is Money.
失った時間を取り戻す
事は出来ない。
いや、できなかったのだ。
つい数週間前までは
出来なかったのだ。
だがそれが可能になる。
人類はこの時間の壁を
超えることに成功したのだ
そして君がこれを証明する。
わが大学にとっても
鼻が高い話なのだ。
ぜひ行きたまえ。
もしそうならば
大学側も今後の生活援助を
惜しまない」
Time is Moneyは英語だが
聞いたことがある。
ボクはそのまま
学長室をあとにした。
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ボクは構内で
ランチを食べず
そのまま大学をあとにした。
去り際の学長の
言葉が脳裏を
離れなかった。
「私の愛する
kyudoを例に出そう。
射手と的までの距離が
約28メートル
直径36センチの的に
めがけて放たれる。
矢が放たれた瞬間でさえ
それはすでにもう
過去なのだ。
射手の手元が若干
ズレるだけで
28メートル向こうの
将来には大きなズレが
生じる。
わかるかね?
私達がいま住んでいる
この世界は君が
研究をいま行っている
第一次世界大戦の
負の遺産なのだ。
当時の戦勝国たちの
交渉の不得手さが
さらなる悲劇を呼び
この22世紀であっても
まだ傷は癒えてはいない。
歴史を操作したまえ。
我が国からファシストを
産む前の世界に行くんだろ?
このドイツを、いや
このヨーロッパ、世界を
戦火から救いたまえ」
「しかし博士
歴史の操作は
堅く禁じられていると…」
「イヤ!君しかできない。
やるのだ。
行くのだ。
それに
歴史にメスを入れて
しまった後では
誰も文句を言えまい。
あと、この事も
覚えておきたまえ。
弦を弛ませては
矢は飛ばない。
しかし
張り詰め過ぎた弦は
脆く切れやすい。
このバランスが
大事なのだよ」
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張りつめすぎず
緩めすぎず・・・
沈黙は金、か
行動が金、なのか。
そんな禅の境地で
帰り道の石畳を
歩いていた。
そうすると自然に
スマートウォッチから
実家ドレスデンの
両親に電話をしていた。
「Hallo. Mutter.
Ich , Yah Oliber.
お母さん、実はね・・」
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続きます。
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