第49話 ドロップボックスからメリカリへの情報漏洩で学ぶこと
CIS Controls11はデータのバックアップについて解説されている。
感染させない対策が何より重要
以前のランサムウェアは、ファイルを暗号化してロックするという手口であった。このためバックアップをとることで、感染したあとでも被害を最小化することが出来た。
しかし最近のランサムウェアは、ロックされる前にすでに情報が窃取されている。このためやはりマルウェア対策が重要であるということだ。
もちろんデータのこまめなバックアップは、サイバー攻撃に限らず事業継続のためには重要なことである。
ラック社で起きたバックアップ時の情報漏洩
バックアップで情報漏洩が発生する事案が今週明らかになった。ラック社の情報漏洩だ。
いくつかの疑問
今回明らかになったインシデントについては、いくつか疑問に思う点がある。
疑問1 なぜ元社員はドロップボックスを使用したのか。
会社貸与のパソコンを新規端末に入れ替えるケースはどの会社でもあることだ。そしてその場合、データの入れ替え手順はシステム管理者によって用意されているのが通常である。
おそらくこの時のラック社についても、他の社員と同様、この元社員にもいれかえ手段が提供されていたであろう。
しかしその手段を利用せず、当時すでにルールで禁止されていた、ドロップボックスを敢えて使用したのはどういう理由があったのだろうか。
疑問2 なぜドロップボックスの業務データを削除しなかったのか。
当時何らかの理由があり、どうしてもドロップボックスを利用せざるを得なかったとしても、新端末にデータを移行したあとに、なぜ業務データをドロップボックスから削除しなかったのか。
この元社員は、その後自宅のMACとデータを同期させただけでなく、タイムマシンHDDへの同期も実行している。不自然と感じられる点だ。
疑問3 通報者はなぜラック社にコンタクトを取ったのか
メルカリにて購入したHDDを稼働させるためにデータ復元する必要があったと通報者が述べている。もしそれが本当だとしても、(消去済みだった)データが戻ったとしても、それは削除して見ないこととするのが一般的な礼儀であろう。
もし連絡を取るのであるなら、メルカリで購入した相手に対して「データは戻ってしまったが、こちらで消しておきます」という一報であろう。
しかしこの通報者はデータを解析し、それをラック社のものであると判定し、メルカリの出品者ではなく、データの流出元であるラック社に通報している。
疑問4 通報者はなぜ匿名なのか
ラック社はこの通報者と直接コンタクトを取ろうとしたようだが、本人は直接会うことは断り、弁護士を通じての交渉となる。この通報者は最後まで匿名のままだった。
弁護士を間にいれて交渉するということは、費用がかかることであり、通報者は匿名のまま、弁護士を通じて、流出元のラック社にコンタクトを取ったというのは、どのような目的だったのかと勘ぐってしまう。
内部不正の情報漏洩を防ぐために
いくつかの疑問は残るが、重要なことはこのような情報漏洩事案に対してはどのような対策が効果的かということだ。
今回のラック社の事案は内部不正に分類される。たとえ本人が漏洩の意図がなくても、社内ルールを遵守しなかったのが原因であるからだ。
では内部不正を防ぐにはどうしたら良いだろうか。
単純にルールを増やすだけでは逆効果?
実は禁止ルールを増やすほど、ルール無視が発生しやすくなる可能性がある。
それはルール無視には次の原理があるからだ。
板挟みがルール無視生む
本人が漏洩の意図が無い限り、社員は出来るだけ社内ルールは守ろうとする。特に日本人のような真面目な気質の人が多い集団はそうである。
しかし「そのルールを守っているととても仕事が終わらない」という板挟みになった時に、やむなくルール無視を選択せざるを得なくなるのだ。
経営者の判断が内部不正漏洩リスクを抑える
このためもし「ルール無視」が発生した場合、経営者はそこに「社員の板挟み」がなかったかを注意深く検証する必要がある。
・なぜ社員は、ルールを無視してサーバのセキュリティパッチを当てなかったのか。
・なぜ社員は、ルールを無視してUSBメモリで業務データを持ち出し自宅のパソコンで仕事をしたのか。
・なぜ社員は、ルールを無視してドロップボックス経由で自宅パソコンに業務データをコピーしていたのか。
再発防止として、新しい禁止ルールを作ることが、社員の板挟みを更に増長するのであれば、その企業のセキュリティ対策の脆弱さは残ったままとなる。
板挟みがしきい値を越えないように
次のどちらかの対策が、板挟み内部不正を起こさせないために有効だ。
1,セキュリティ対策を施した効率の落ちない手段(要塞化されたパソコンの自宅持ち帰りの許可など)を与えること
または
2,セキュリティを遵守するために業務効率がある程度低下することを容認すること。
まとめ
内部不正を起こさせないためには、ルール遵守と業務効率の板挟みが限界しきい値を越えさせないことが重要。
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