JPXのカーボン・クレジット市場始動
10月11日、JPXがカーボン・クレジット市場を開設、売買が始まりました。
9月22日に開設日が決定して以来、徐々に注目が集まっていましたね。
JPXでは同日式典が開かれ、出席した西村康稔経済産業相が「カーボン・クレジットの活用は、社会全体の効率的な排出削減を実現しながら民間企業のGX(グリーントランスフォーメーション)投資を引き出していく効果を持つ取り組みだ」と話したことも、各メディアで伝えられていました。
ここまでメディアで採り上げられたことに正直驚いていますが、まぁ、始まるときだけはニュース性があるので報道するものの、その後の検証はお座なり、というのがメディアの本性。是非とも、継続的な報道をお願いします。
さて、制度の概要を簡単に説明しますね。
注文は区分(クレジットの種類)と金額(指値)及び売り買いの別を指定して、システムより注文受付時間内に行います。成り行き注文はありません。
売買は、売買の区分ごとに売り注文と買い注文を集約し、対当する呼値の間に売買を成立させることにより行います(板寄せ方式)。
板寄せは午前1回(11:30 セッション1)と午後1回(15:00 セッション2)行われます。ですので、ザラ場はありません。
区分というのは、クレジットの種類です。
第一階層、第二階層、第三階層と分かれています。
第一階層とは、J-クレジットの成り立ちに関係するものなので、無視してもらって構いません。(色々語りたいところではありますが)
第二階層とは、削減系(Avoidance)なのか、吸収系(Removal)なのか、はたまた再エネ系なのか、という分類です。再エネ系は、熱と電力に分かれています。
第三階層とは、方法論による分類です。
今回開始された市場では、注文の区分として第二階層しか指定できません。
「省エネ」「森林」「再エネ(電力)」「再エネ(熱)」という、ホントに大雑把な指定しかできないのです。
どのプロジェクト実施者が、どんなプロジェクトで生み出したクレジットか、分からない状態で注文を入れないといけないのです。参考になるのは値段だけ。
まるで、福袋ですよね。
開けて見るまで、何が入っているか分からない。
100万円だから、さも高価な商品が入っているかと思えば、自分には無用の長物だった、ということが十分に有り得るわけです。
例えば、RE100に使おうと思って注文を入れたところ、トラッキングがついてなかったり、稼働から15年以上経過していたりするかもしれません。電源を指定できないので、RE100適格なクレジットに「当たる」こともある。まさに博打です。
その目的であれば、アスエネとSBIの合弁会社Carbon EXが開始した、マーケットを利用する方がよいでしょうね。
JPXのETS、使い道があるとすれば温対法の調整後排出量目的でしょうか。
区分で「省エネ」を指定して、安い金額で注文を入れておけばOK。
その後のクレジットの口座移転も、支払もJPXが行ってくれます。
約定しないかもしれませんが、高値づかみはありません。
JPXを通さず行おうと思うと、プロバイダーに依頼して相対で行うか、JEPXの入札に参加しなければなりません。はっきり言って手間です。
つまり「銘柄」を指定できないのが、一般の株式市場との最大の違いです。
これを、十二分に承知しておく必要があります。
ただ、22年9月から23年1月まで実施していた試行事業において、当初は、第三区分までしていたところ、売買が成立しにくかったことも事実。12月からは、第二区分までとし、かつ政府が在庫を放出したこともあり、飛躍的に改善したそうです。
これを踏まえての、本格稼働なのですが、果たしてどうでしょうか。
システムの使い勝手やロジックの確認の「お試し売買」だった模様。
初日は3,689tが約定したものの、2日目は1,043t、3日目は1,502tと右肩下がりの結果。
発注の仕方などを見ていると、トレーダーの思惑が分かって楽しいのですが、こちらについてはオープンにできませんので、直接聞いて下さい(笑)
ということで、華々しく(?)スタートした、JPXカーボン・クレジット市場。
西村康稔経済産業相の期待通りのパフォーマンスを見せるかどうか。
しっかりとウォッチしていきたいと思います。