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中国の排出権取引市場について

先に世界の排出権取引市場の現状をお伝えしました。

ここで、読者の方から、中国の排出権取引市場について教えて欲しいというリクエストがありました。とはいえ、「注目ですよ」と言っておきながら中国語がまるっきりな私。「up to date」な情報を入手するのに苦労しているのが現状。

そんなとき、気候変動対策や炭素市場などについて、いつも非常に有用な情報を提供されているIGESさんが、非常に分かりやすいレポートを出してくれていました。

今回は、そのレポートから、皆さんが知りたいと思われているであろうポイとを抜き出して、紹介したいと思います。2011年に7つの市・省においてパイロット炭素市場が始まったことは知っていましたが、それから、極めて慎重に準備を進めていたようです。


気になるのは対象セクターでしょう。

全国ETSの導入に向け、政府は「GHG排出量報告・検証ガイドライン」に基づき、2013年から2015年の排出量及び関連データを年度別に報告させました。対象は、下記8セクター、かつ、2013年から報告年までの任意の年におけるGHG排出量が26,000トン以上の事業者。

炭素排出量算定・報告・検証の対象業種

この結果、発電部門が他のエネルギー消費型の産業部門に比べ、データの精度が高いことが判明。全国ETSは、当初は発電部門のみを対象とすることが決定。2021年7月より、オンラインでの取引が開始されています。

発電部門の対象事業者は2,225社、全国の排出量の1/3以上を占めるという。
2025年にかけて、準備が整い次第、対象を上記8セクターへ拡大する予定。

なお、対象は発電部門のみですが、排出量報告は他のセクターも義務です。
前年度の排出量を、毎年3月31日までに提出。データの記録と管理台帳は5年間保管し、定期的に公開する必要があるとのこと。

ここで驚きなのが、提出を受けた所掌官庁は、報告書の検証を第三者検証機関に依頼、その結果を提出事業者へ通知するとのこと。かつ、検証費用は政府の負担となる見込みとか。

確かに、「排出権取引」という契約行為が行われるのですから、データの確からしさは担保されなければならないので、当たり前と言えばそうですが。中国の本気度が伝わってきます。


排出枠の割り当ては、ベンチマークを採用しています。
具体的には、下記計算式で算出。

石炭火力ユニット排出割当量
給電量×給電基準値×冷却方式修正係数×熱供給量修正係数×負荷(出力)係数修正係数+熱供給量×熱供給基準値
 
ガスタービン排出割当量
給電量×給電基準値×熱供給量修正係数+熱供給量×熱供給基準値

1.給電基準値

給電基準値

2.冷却方式修正係数 水冷:1、空冷:1.05

3.熱供給量修正係数
・石炭火力ユニット 1−0.22×熱供給比率
・ガスタービン 1ー0.6×熱供給比率

4.負荷(出力)係数修正係数
・従来型石炭火力ユニット:下表
・その他の石炭火力ユニット:1

従来型石炭火力ユニットの負荷(出力)係数修正係数

基準値については、今後実際の排出割当量の余剰あるいは不足状況に応じて、調整を行うとしています。

なお、当初の排出割当量は、全て無償で配分されるそうです。
現段階では、割当量不足分の上限を、検証済排出量の20%とするとのこと。
さらに、ガスタービン促進のため、無償割当量を超えた場合でも、不足分の償却義務は免除だとか。これって、何か違うような気がしますけど。

初期段階では、全国炭素市場での取引商品は排出割当量限定。(といっても、無償で割り当てられた割当量を売買して、収入を得るというのは何だろうかと思いますが)

取引参加者は、排出事業者や要件を満たす機構(法人)に加え、個人でもOK。今後、中国全土で行われる取引は全てオンライン。興味津々です。


こうなると、2省5市で実施されているパイロット炭素市場との関係が気になります。現在は、福建省と四川省も2016年から自主的に開始しているので、9つの地域炭素市場が存在していますが、全国ETSはこれらとは並行に進められる予定です。

地域炭素市場の対象業種と事業者数
全国ETSのの対象業種と事業者数

何れかの炭素市場に参加すればよいようですが、北京・上海・深圳の対象業種は全国ETSと大きく重なっているため、これら5つの炭素市場は、全国ETSの対象業種が8セクターへ拡大するのと併せて徐々に縮小、最終的には消滅すると考えられます。

他方、北京・上海・深圳は、サービス業・交通部門・建築部門が対象となっていることから、全国ETSと共存する可能性が高いとしています。

最後に、全国ETSの特徴をまとめておきましょう。

1.排出量の割り当てはベンチマーク法
2.当初は無償割当
3.キャップはない
4.初期段階は発電ユニットからの直接排出のみが対象
5.今後対象を8セクターへ拡大、電力の間接排出も対象となる

次回は、韓国のETSを採り上げたいと思います。
今しばらく、お待ちくださいませ。

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園田隆克@GHG削減サポーター
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