'Race to Zero campaign'がアップデート
「Race To Zero campaign」は、世界中の企業や自治体、投資家、大学などの非政府アクターに、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すことを約束し、その達成に向けた行動をすぐに起こすことを呼びかける国際キャンペーンで、UNFCCCが2020年6月に発表しました。
2022年5月16日現在の参加メンバーは以下の通り。
都市:1,122
地域:52
高等教育機関:1,114
企業:7,552
金融セクター:555
健康セクター:63
日本では、JCIが公式パートナーとなっています。
今般、200を超える専門家や市民社会グループ等との国際的コンサルテーションを実施し、クライテリアを更新しました。
主な内容は、以下の4点です。
1.公正な移行(just transition)の一環として、削減対策が施されていない化石燃料については、段階的に削減・廃止するという要件を明示すること
「削減対策が施されていない」というのは、例えば、CCSのように、CO2回収措置等が何も付帯していないと言う意味。英語では「unabated」です。なので、いくら高効率な石炭火力でも「unabated」です。
従来は明確にされていなかったとのことで、「移行段階に暫定的に特別に許容しているだけであって、最終的に廃止するということをプレッジしろ」ということですね。
新たなプロジェクトとしては認められません。もちろん、具体的な道筋やスケジュールは、地域やセクターによって当然異なるでしょう。これについては、参加メンバーにとってみれば、当たり前でしょう。
2.Race to Zeroへの参加後12ヶ月以内に移行計画(または同等のもの)を公表するという既存の要件を明確にすること
3.ネット・ゼロを約束するすべて全てのメンバーが、中間目標と長期目標の両方において、全ての排出範囲をカバーする必要性を明確化すること。
この2つも、「期限を明確にしなさい」「バウンダリーを明確にしなさい」というだけ。検証における「CL:Clarification」明確化要求と同じかな。
立ち上げ時のルールにいろんな穴があって、それが、コンサルテーションで指摘されただけのように思います。
金融機関は、「投融資先の排出量も全て含みなさい」としています。借りる側は、貸し手の要求には応じざるを得ませんから、「積極的に影響力を及ぼしなさない」ということでしょう。
4.新しい基準(Persuade)を導入し、メンバーはロビー活動やアドボカシー活動の照準をネット・ゼロに合わせ、国及び自治体、地域レベルの環境施策が「Race to Zero criteria」と一致するよう、積極的に支援すること
今回のアップデートは、この解釈が一番のキモかと思います。
「Persuade」は日本語では「説得する」「説き伏せる」「納得させる」ですが、OALDには「to make somebody do something by giving them good reasons for doing it」とあります。
「十分な理由を示して、行動を促す」ということなので、SBTiの目標設定でいうところの「エンゲージメント」のような意味合いかと思います。
つまり、スコープ3では、サプライヤーやお客様を巻き込んで、バリューチェーン全体での排出量を削減していこうという取り組みを「エンゲージメント」と言いますが、同じようなものでしょう。
このアップデートは、新規に参加するメンバーには、2022年6月15日から、既存メンバーは、遅くとも2023年6月15日までにこの基準を満たす必要があります。
なお、Race To Zero campaignが示すクライテリアは、フレームワークのようなものだとお考えください。ですので、このキャンペーンに賛同するイニシアチブは、枠組内において、個別具体的な基準を設けることができます。
例えば、SBTiの「Net-Zero Standard 」。
こちらは、500人以上の大企業向けという基準を設けています。
GFANZは、金融セクター向けに特化しています。
まぁ、その他、色々なイニシアチブが様々な基準を作って活動していますが、2050年にネットゼロという着地点は同じです。細かな違いはあるにせよ、やるべきことは「削減」です。
同じ取り組みにおける評価を公表できるプラットフォームが複数あると考えて、地道にNet-Zeroを目指していきましょう。