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LCA実践塾西表島合宿(5)〜西表島の将来を憂う

LCA実践塾」の西表島合宿レポート、5回目。
合宿のテーマは「海洋ごみ」と「オーバーツーリズム」
4回目までで、両テーマについてはご案内しました。

「海洋ごみ」については、島随一のネイチャーガイド、バナナハウスの森本さんに現場を案内頂き、その影響の大きさに驚きました。

「オーバーツーリズム」については、自然環境の保全と持続可能な観光を実現するために、町と住民が連携している現状を、西表財団で伺いました。

1回目から4回目は、こちらからどうぞ。

今回は、前回の最後にご紹介した、国と県そして町の思いの相違について、個人的な見解も踏まえて、ご案内していきたいと思います。

まず、西表島の自然環境の保護と持続可能な観光の推進を目指す、2つの計画、構想があるのでした。

西表島観光管理計画 策定主体:環境省・沖縄県
西表島エコツーリズム推進全体構想 策定主体:竹富町

基本的には両者は整合的なのですが、観光管理計画は、観光客の流入制限や地域の自然保護に関する具体的な管理策であるのに対し、一方でエコツーリズム構想は、地域社会や観光業の発展と自然保護の両立を目指したビジョンを示したものと言えます。

観光管理計画は、行政主導で、より具体的な観光客の流入管理や規制に重点を置いているのに対し、エコツーリズム構想は、地域主導で観光事業を育成し、観光と地域社会の共生に焦点を当てているのが特徴。

観光管理計画は法令に基づく規制があり、強制力がある場合もある一方、エコツーリズム構想は地域住民や事業者の自主的な参加を促すものである点も異なっています。(条例により法的拘束力を持たせているものもありますが)

何よりも異なるのは、観光管理計画が、世界自然遺産登録のために策定されたのに対し、エコツーリズム構想の推進はより以前から行われていたことです。(策定自体は登録後ではありますが)

つまり、観光管理計画は登録の維持を担保するための計画なのです。

IUCN(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources:国際自然保護連合)という、世界自然遺産登録の生殺与奪の権(?)を握っている組織があります。

そのIUCNが、登録に当たり複数の条件を提示してきたのですが、この勧告を担保するために策定されたのが観光管理計画だったのです。

このような背景を、予備知識として持っていなかったため、財団で話を伺った際にピンとこなかったのですが、復習してガッテンしました。

まず、「住民は世界遺産登録反対だった」という話。

町は2017年、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及 び西表島世界自然遺産候補地」国により初回の推薦を受けた後、西表島内の6 つの小学校区で意見交換会を行うなど、周知を積極的に行い、町民挙げての登録機運を高めていると思っていたので、意外でした。

西表島世界遺産だより第7号より

ところが、具体的な説明がなされたのは、登録後だったとのこと。
なおかつ、意見「交換」ではなく、「説得」の場だったというから驚きです。

実は、国は2017年に推薦した後、2018年に一旦取り下げています。
それは、IUCNから、現状での登録は難しいとされたからです。

理由は次の3点。

1.環境劣化防止
2.ファイナンシング
3.住民の参画

1と2については、3・4回目でご案内しました。
「意見交換会」は、3.の指摘に対応するものだったのでしょう。

登録のメリットばかりを訴求し、反対の意見が出ないようにするのが、狙いだったのでは?と勘ぐってしまいます。

そもそも、世界自然遺産登録(2021年)など受けなくても、十分に観光客は来ていたので、登録により入域者が増大し規制が強まるようであれば、ありがた迷惑ということなのでしょう。

竹富町入域観光客数より西表島計を抜粋(再掲)

登録を受ければ、特に海外からの注目を浴びることとなり、その需要に着目したビジネスが盛り上がることは必定。

実際、2000年には20くらいしか無かったガイド事業者の数が、現在では、100を超えているとか。ダイビング等はあまり増えていない一方、カヌーやトレッキングが急増しているとのこと。

設備などリソースが必要なダイビングガイドに対し、比較的開業しやすいことが要因であるとの説明を受けました。

とはいえ、西表は山深い島のため、内陸部へ入っていくのは容易ではない。勢い、アクセスしやすいサイトへ観光客は集中することとなり、ピナイサーラの滝は、ピーク時には200人以上が訪れたりするそうです。

前回紹介した、管理計画の管理基準も、島民としては(特にツアーガイドにとっては)、登録による「デメリット」と受け取られることでしょう。

年間の管理基準 (基準年:令和元年入域観光客数290,313人)
年間入域観光客数を前年比1割以上増加させない。
年間入域観光客数33万人を上限とする。

1日当たりの管理基準
1日当たり1,200人を上限とする。

このような内容をオープンにすること無く、「住民も賛成しています」という事実を作り上げ、満を持して2019年2月1日、国はIUCNへ再び推薦を行ったというのが真実かもしれません。

ちなみに、一旦取り下げたのは、「2度目は無い」からです。

一度、国から推薦を受けて登録にならなかった場合、事実上、再チャレンジはできないというのです。なので、取り下げておいて、指摘事項を担保する「観光管理計画」を決定、再推薦という道を選んだということです。

再申請後の2019年9月に、IUCNの視察団が島を訪れています。

この際に私は、2.ファイナンシング(「環境劣化を防ぐ施策を実施するに当たっての資金的な手当てが不十分」)という指摘事項に対する施策としてもらうよう、「西表島ブルーカーボン事業提案書」を町に提出しています。

登録の一助となったかは不明ですが(恐らくなってない?)、予算が足りないことは、事務局長の説明からもひしひしと伝わってきました。

賛同してくれる企業からの資金提供などを受けながら、財団としては、3つの森を守る活動(世界自然遺産の亜熱帯の森、日本最大のマングローブの森、生物多様性を支える海の森)を実施している旨の説明がありました、

LCA実践塾としては、ツーリズムによる環境影響評価などで協力できますし、私個人としては、提案済のブルーカーボンの創生でお手伝いできます。

今回の訪問は、様々な気づきがあり、学びの機会でもありました。

「離島は日本の縮図」であり「離島の課題は日本の課題」
誰もが参画できる仕組みを構築し、サスティナブルな未来を築いていきたいですね。


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園田隆克@GHG削減サポーター
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