SBTiは妥協したのか?
4月9日、SBTiは、スコープ3削減に当たってクレジットの利用を認める旨の声明を発表しました。
いわゆる「高品質なクレジット」であれば、気候変動に取り組むための新たなツールとして機能する可能性があることを認識したからとのことですが、2030年が近づくにつれ、現実的路線にシフトしてきたといえるでしょう。
その前兆は既に現れていました。
クレジットの使い方、開示方法については、VCMIによる「Claims Code of Practice:CoP」がほぼデファクトで、Ver.1がリリースされたのが、23年6月28日。ISSBのS1・S2基準の発表とほぼ同時だったためあまり話題になりませんでしたが、私にとってはこちらが注目の的でした。
簡単に言うと、自社の削減活動の程度を対外的に主張するためのルール、クライテリアです。次のように、「PLATINUM」「GOLD」「SILVER」の3つのTierが規定されています。
排出量のうち、何%を「高品質なクレジット」でオフセットしているか、でレベルが分かれており、特に「PLATINUM」に至っては、実質カーボンネガティブになっています。
noteでご案内していますので、詳細はこちらを参照下さい。
しかしながら、案の定「厳しすぎる」という声が各所で上がったからでしょう。これまた、COP28期間中という一大イベントの影に隠れてリリースされたVer.2と併せて、「Scope3 Flexibility Claim」もリリースされました。
詳しくはnoteを参照頂きたいのですが、ひと言で言うと、クレーム年(算定した年)のスコープ3排出量(A)と、1.5度目標削減経路における、その年のスコープ3排出量(B)との差分(A-B)について、Aの50%までは「高品質なクレジット」によって控除してよいというもの。
Scope 3 Flexibility Claimは、VCMIのCoPの「Silver」「Gold」「Platinum」のクレームを達成するための橋渡しを担うものと考えてよいでしょう。
このように、主張するためのルールにも「緩和措置」が設けられた一方、創る側のルールもICVCMの「Core Carbon Principles」によって「高品質なクレジットとはどうあるべきか?」ということが明確化されています。(まぁ、こちらも厳しすぎるという批判を受けてますが)
加えて、昨今、ウォッシュ批判対応や、CCPやCORSIAの認定申請など、クレジットスキームオーナーは、既存の方法論の改訂に奔走しています。
つまり、「高品質でないクレジット」が今後生まれる可能性が、殆ど皆無になってきているのです。(だからこそ、結局生まれないこともあるかも)
このような、クレジットビジネス環境の変化を背景に、SBTiとしても、クレジットの使用を容認する方向へ舵を切ったのだと推測します。
そもそも「クレジットにする必要があるか」という問題意識はもっていますが、いずれにせよ「持続可能な社会の実現」という合目的的に考えれば、しかるべき判断だと考えます。
ただ「自己削減ファースト」である点は揺るぎません。
それに至るパスが、一つ増えたに過ぎません。
これからも、結果にコミットして、粛々と計画を実行していきましょう。