正確な記事、適切な紹介を望みたい
2009年、日本国内で初めて「カーボン・クレジット」と言う「環境価値」を取引できるスキームが生まれてからこの方、クレジットの創生やその利活用、特に地域活性化に携わってきた人間からすると、このような記事には残念でなりません。
内容は、Noriというスタートアップが、CO2の除去・吸収量をクレジット化するとともに、それを流通させる市場を設立、運営しているという話です。
吸収系だけでなく削減系のクレジットでも、現在は基本相対取引です。WEB上で検索し、売買もWEB上で完結させることもできますが、都度やり取りをしなければなりません。
できないこともないですが、そのあたりは、こちらを参照ください。
このNoriのビジネスが画期的なのは、市場構築にブロックチェーン技術を活用している点です。クレジットがブロックチェーン上に書き込まれるため、その後の取引を通して、内容の透明性を保つことができます。
「電力のやり取りでも使ってるよね」
そう思ったあなた、素晴らしい。その通りです。
「電力」もCO2と同様目に見えず、全国に張り巡らされた送電線(系統と呼びます)を通じてやり取りされるので、どこで発電されたかは分かりません。
それが、ブロックチェーン技術を用いることで、特定することができる。「電源証明」を行うことができるので、購入した企業は、「再エネ電気」として利用できるのです。もちろん、適格であればRE100に活用もできる。
他方、CO2でブロックチェーン技術を使う利点は、ダブルカウントが回避できること。「目に見えない」ので、はっきり言って何度使っても分からないのです。利用したら確実に消滅させなければ、逆に排出を増やすことになってしまうのです。(無効化と言います)
「何で今まで誰もやらなかったの?」
そう思ったあなた、素晴らしい。その通りです。
実は、電力の場合は、スマートメーターのような測定器を使って、自動的にできる一方、CO2の場合は、どうしても、人手を介す必要があり、効率的な導入ができていなかったのです。それをクリアした点が、Noriのコアコンピタンスと言えます。
何度も紹介してきたように、2050年にゼロカーボンを目指す、SBTiの長期目標でも、10%程度はどうしても削減できない量が残るとし、中和クレジットでゼロにするとしています。その中和クレジットの有望株が「吸収系クレジット」です。
それが、ワンストップで購入できる市場が実現する。
その点で、このNoriのビジネス、注目に値します。
ということで、Noriというスタートアップには、非常に期待したいと思いますし、このように、記事として採り上げてくれるのは嬉しいことです。
ですが、その導入部分が、必ずしも適切でないと考えます。
ボランタリーなクレジットの売買について、十分な知識を持って、説明されているとは思えないからです。
確かに、そのような事実も存在します。
ただ、地球環境の保全に資する活動として、地域の活性化に貢献する取組として、誠実に事業をされている方について言及していないのは、明らかにミスリードにつながります。
具体的に、どの点が適切でないかは、述べることは差し控えます。
ただ、正確な記事、適切な紹介を望みたい。
私は、これからも、バランスの取れた記事を書いていきたいと思います。