カーボン・クレジット辞書の最高傑作?
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2022年3月31日に非国家主体によるネット・ゼロエミッション誓約に関するハイレベル専門家グループ「High-Level Expert Group on the Net-Zero Emissions Commitments of Non-State Entities」を設立しました。
このグループは、企業、投資家、都市、地域などの非国家主体によるネット・ゼロ・エミッションの誓約について、より強力で明確な基準を策定し、その実施を加速することを目的としています。
その、ハイレベル専門家グループが、COP27において同グループの報告書を発表しました。「ネットゼロのグリーンウォッシュに対してゼロ・トレランスでなければならない」との理念の元、作成されています。
「信頼性と説明責任を備えたネットゼロ誓約を確保するためのHow-to ガイド」という位置づけのようで、「環境十全性、信頼性、説明責任、政府の役割」という4つの主要分野で明確にしているとのこと。
グリーンウォッシュを回避しなければ、クレジットの活用は進まない、ひいては、世界全体の排出削減が達成されないとの危惧から、私も、繰り返し「高品質なクレジット」について、ご案内してきました。
今回のこのレポートは、気候変動対策の大本営が発表したという点で、否が応でも注目が集まります。
このレポートには、「5つの原則」と「10の提言」が述べられています。
「5つの原則」は、ネット・ゼロ目標の設定と達成の指針であり、「10の提言」は、非国家主体がネット・ゼロに向けた進捗の各段階において考慮すべき事項、及び、ネット・ゼロ達成のために貢献しなければならない事項を詳述したものです。
ひととおり確認しましたが、まさしく「公式ガイドブック」
IEAやIPCCのような「データ提供機関」、TCFDやISSB、FSB、IOSCOのような「開示監督機関」、SBTiやPCAF、GHGプロトコル、ISOのような「算定評価方法イニシアチブ」、ICVCMやVCMIのような「カーボン・クレジットイニシアチブ」の活動と協調した内容となっています。
はっきり言って、目新しくはありません。
ただ、これらのイニシアチブをどのように活用すべきか、簡潔に述べられている点において、極めて優れておりかつ使いやすいツールになっています。
この点が、個人的にはエポックメイキングなことと感じました。
例えば、「クレジットを創りたい、使いたい」と思えば、「3.ボランタリークレジットの活用」を参照してみましょう。
そこには、「クレジットを使用する意義」が簡単に述べられており、「使用に当たって推奨される事項」の詳細な説明があります。加えて、供給側のガイドラインとしては「ICVCM」、需要側のガイドラインとしては「VCMI」がいずれも開発中であるという情報が記載されています。
「4.移行計画の策定」では、「IPCCやIEA、Network for Greening the Financial System(NGFS)、One Earth Climate Model(OECM)が1.5℃目標に合致したセクター別のパスを提供していますよ」というアドバイスがある。
他方、「高品質なクレジットであってもバリューチェーンの中で使ってはダメ」とか、「ロビー活動自体にも整合性つけなさい」とか、割としっかり踏み込んでいる点も高評価。
事務総長がこの報告書について「信頼性と説明責任を備えたネットゼロ誓約を確保するためのハウツーガイド」と説明していますが、まさにその通り。
41ページの英文レポートですが、章立てがしっかりしているので、辞書的に使えます。単語も環境に携わっていれば、理解することは極めて容易。
関心のあるところを、さらっと読んでみて下さい。
このレポートの「お役立ち度」が分かると思います。