適応能力欠如の結果
20年ほど前、一大決心をして新卒で入社した会社を辞職、次の仕事を探すまでの「Job Hopping」の期間、「少しでも英語が上達できれば」という淡い期待のもと、ラスベガスの州立大学へ1ヵ月だけ通ったことがあります。
初めて降り立ったラスベガス、こんな砂漠の真ん中に、何故こんな巨大な都市があるのだろうかと驚いたものです。
ベラッジオの噴水ショーや、ベネチアンの運河は言うに及ばず、ハイローラーや観光客が滞在するラグジュアリーホテルには、漏れなく、豪華なプール付き。もちろん、格安のモーテルにもありますが。
日本では水道水が当たり前のところ、各家庭にはもれなく巨大なサーバーがあり、燃費の悪そうなトラックが、ガロンタンクを満載して、市内を循環していました。
ほどなく、これが西部にある、コロラド川が「フーバーダム」で堰き止められて生まれた「ミード湖」の恩恵であることを理解しました。何度か訪れましたが、当時は並々と水を蓄え「これがアメリカなのか」とも思ったほど。
後に、さらに上流に、これまた巨大なダム湖「パウエル湖」があるというのを知り及び、「あのグランドキャニオンを生み出した大河だから当然か」と妙に納得した記憶もあります。
そんな「Westerner」の命の源泉「コロラド川」が瀕死の状態にあることは当然知っていました。が、その程度。温暖化によるものと思われる極端現象があまりにも多く、最近は記憶の中から消え去っていました。
そんな折に飛び込んだ、英エコノミスト誌の記事。
早ければ、来年にも、パウエル湖から1滴も水が流れ出さなくなる可能性があるというものです。
2021年「史上初」の「水不足宣言」をしたと言いますが、政府は何を考えていたんですかね。で、今年2022年8月16日、「深刻な危機レベル(a more severe threat level)」へ引き上げ、流域の7つの州は2023年までに、コロラド川からの取水量が49億m3減らされるとか。
ちなみに、これは、川の年間流量の約3分の1に相当し、カリフォルニア州の年間使用量のほぼ全てに相当するそうです。
でも、日本だったらこんなシビアになる遥か以前に、対処しますよね。
世界的に見ると水リスクが低い日本より、水に対する危機意識が低いとは。
恐らく、コミュニティーレベル、州レベル、及びアカデミックの領域では認識しているものの、「頭」が追い付いていないのでしょう。温暖化対策に先進的な当該州と、未だに、石炭産業に配慮し、抜本的な改革に乗り出せない政府との関係と同じようなものでしょうか。
水位が1900年代と比較して20%も低下し、既に、当該地域の水需要を賄えないことは明らか。温暖化対策で言うところの「point of no return」を超過しており、「mitigation(緩和)」や「adaptation(適応)」も意味をなさないのでは無いでしょうか。
スタンフォード大学のニューシャ・アジャミ教授が、施策を批判して言い放った言葉だそうですが、的を射てますね。逆に考えると、水が無くなった今は、「Nothing is possible」ですね。
温暖化対策はビジネスと同じ。
時代と共に変わっていかなければ、「適応能力」がなければ、市場から撤退を余儀なくされるのです。
危ぶまれていたインフレ削減法案が成立した米国。
その覚悟は如何ほどのものでしょうか。