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稲作中干し期間延長クレジットについての考察

農業分野におけるJ-クレジットの新しい方法論である「AGー005
 水稲栽培における中干し期間の延長」の誕生はご存知の方も多いでしょう。

J-クレジット ウェブサイトより

メタンは嫌気性条件で、微生物の働きによって生成されるところ、水田はメタン生成に好適な条件が整っていると言えます。なので、水稲栽培において湛水しない期間(中干し期間)を延長することにより、メタン発生量が抑制されるため、その削減量をクレジットとして認めるというものです。

AGー005 概要版より

これを受けて、既に7つのプロジェクトが登録されています。

J-クレジット ウェブサイトより

ちなみに、日本は気候変動枠組条約(UNFCCC)を批准しているため、事務局に対し、日本におけるGHGの排出量(インベントリ)を報告しています。

原本は、こちらのサイトからダウンロードできます。

中干し期間延長のクレジットは、この報告書に、稲作におけるメタン排出が含まれていることが裏付けとなっています。

日本国温室効果ガスインベントリ報告書より

今年度報告より、潮間帯に位置するマングローブ林からの排出・吸収量を算定対象に加え、湿地カテゴリー下で報告するようになったため、同じ文脈で、ブルーカーボンが脚光を浴びています。何度もご案内している「J-ブルークレジット」です。

閑話休題、中干し期間延長クレジットについては、7プロジェクトの登録がありますが、計画の中身を見ていきましょう。

サイトの「登録プロジェクト一覧」において、適用方法論「農業(AG)」でフィルタリング、プログラム型のタブを選択すると、前述したプロジェクトリストが表示されます。

そのリストの「関係書類」の中に「プロジェクト計画書」があります。
該当箇所だけ抜き出してみました。

各運営管理者のプロジェクト計画書より

分かりやすいように、1年当たり及び1件当たり(1農家1年当たり)の創出量を表にしたのがこちら。なお、1年当たりは23年度から30年度までの単純平均、1件当たりは、数年経過後でほぼ安定した際のおよその値を表示しています。(詳細はプロジェクト計画書に当たって下さい)

各運営管理者のプロジェクト計画書より筆者作成

これを見ると、各者バラバラであることが良く分かりますね。

特に、三菱商事とフェイガーの、1年当たりの創出量が多い。
他方、Coは1件当たりの創出量を多く見積もっている。

これは「プログラム型」であり、個々の農家の削減量を運営管理者がとりまとめて登録申請しているものですので、どれだけ、参加者を集めることができるかで量が変わってきます。Coは、大規模農家が比較的多く参加していると言えます。

ただ、気になるのは、省エネ・削減系クレジット(Avoidance)と吸収・除去系クレジット(Removal)を正しく理解していない運営管理者がいると思われる点。(そのようなことが推察される発言をしている事業者を見かけました)

GHGプロトコルでは、現在、いかなるクレジットも、自社の排出量から控除することはできないとしています。ただ、2050年断面では、残余排出量(Residual Emissions)を中和により、カーボン・ゼロ達成を認める予定。

この際、中和に使用できるクレジットは、Removal系のみと考えられます。

また、2050年に至らない段階で「カーボン・ニュートライティ」を達成したい場合に使用できるクレジットも、Removal系のみ。

なので、現状、中干し期間延長クレジットを使用できるのは、SHK制度による報告のみ。であれば、単価は、せいぜいトン1,600円程度。

1件当たり177トンのCo参加農家でさえ、年間30万円弱。

中干し期間延長により、品質に対する悪影響が懸念される中、この金額を、高いとみるか安いとみるか。影響はまだ推測でしかなく、後になってさらに大きかったことが判明したりすれば、元も子もない。

運営管理者としては、参加者を集めなければプロジェクト継続が困難になるでしょう。しかしながら、その際、農家の方々に対し、バラ色の話ばかりすること無く、現実的な話をした上で、参加を募るようにして頂きたいです。

私としても、継続的にウォッチしていきたいと思っています。
「高品質なクレジット」エバンジェリストですから(^_^;)

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園田隆克@GHG削減サポーター
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