温対法報告はGHGの第三者検証に耐えうるのか?
自社の排出量だけでなく、バリューチェーン全体の排出量を算定する動きは、この2、3年急速に高まりました。
これは、TCFDのような、非財務情報を開示するルールが誕生し、世界各国の金融主管官庁が財務情報同様の開示を求め、機関投資家の開示要求も高まり、呼応するようにサステナビリティ関連のインデックスが乱立するなど、気候変動をとりまく環境の大きな変化が、背景にあると認識しています。
世界は「バリューチェーン」でつながっているため、中小企業も、蚊帳の外でいられなくなり、特に今年23年に入ってからは、「何かしなければ」という事業者が多く見受けられるようになりました。
いままで行ったことが無かったのであれば、「まずは自社の排出量から」と考えるのは当然でしょう。
そんなとき「SHK制度で報告しているから、大丈夫だよね」と考える方も多いのではないでしょうか?
もちろん、省エネ法の特定事業者、あるいは、温対法の特定排出者であり、毎年報告をしているのであれば、そのデータは、自社のスコープ1・2排出量として利用できます。
ただし、算定し第三者検証を受けるとなると、留意すべき事項があります。
まず、SHK制度は「地球温暖化対策の推進に関する法律」という法律に基づいており、明確なルールが決まっています。算定対象となる活動は限定されており、その排出係数も決まっています。
他方、「GHG算定」では、そのルールは様々存在しています。
もちろん、GHGプロトコルがデファクトとなっていることは疑いようのない事実ですが、あくまでもフレームワークに過ぎません。誰でも利用可能な排出係数が公開されている訳でもありません。
ISOも存在しますが、こちらも、各国で利用可能なルールを目指したものであり、要求事項や手順、原則が示されているだけです。
ですので、企業がバリューチェーン全体の排出量を算定するためには、まず、どの規格に準拠するのかを決定し、自社で取り組むに当たって必要な規格、マニュアル、手順書を作成する必要があります。
QMSやEMSの認証を取得するためには、9001や14001の要求事項を満足するマニュアルを作成し、社内で様々な手順書や規定を整備しますよね。それと全く同じです。
では、算定を終えて検証を受けるとしましょう。
このとき、検証機関と契約することになりますが、その際には、次の5つについて互いに合意します。
例えばこんな感じ。
検証機関としては、合意した「保証水準」にしたがって検証業務を行うことになります。
その際には、明確な「エビデンス」が必要となります。
データのエビデンスであれば、購買伝票や請求書、納品書、領収書あるいは現場の日報ということもあるでしょう。
ですが、検証では、温室効果ガスを排出する「排出源」も確認します。
実際に存在するのか、特定漏れはないか、現地検証で確認する事項です。
現地検証では、敷地境界も確認します。工場配置図や平面図を参照しながら、歩いて逐一照合していきます。
組織的範囲の確認では、工場であれば、建築基準法や消防法、工場立地法などの届出など、ビル等にテナントで入っている場合は、賃貸契約書等の提出を求めます。
また、信頼性が担保されるような、算定体制の有無も重要な確認事項です。各ステップにおいて、責任の所在が明確になっている必要があります。
現地検証では、担当者へのインタビューを行う場合もあります。
なお、組織が定める手順も、上記の例では、ISO14064-3の要求事項を満足しているか確認します。エビデンスを用いながら説明してもらうことも多いですね。
いかがでしょう。
温対法の報告は「報告」して終わりですが、GHGの第三者検証は、報告書だけ、データだけでなく、その算定プロセスや手順、算定体制まで確認することとなります。「結果」だけが正しくても点数がもらえない、大学の二次試験のようなものなのです。
証憑類も、公的文書まで要求されます。レベルが異なると思って下さい。
とはいえ、温対法の報告ができていれば、スタート地点としては十分。
とにかく、「Doable(実施可能)」な体制の構築に努めましょう。
毎年の実施によって、確実にスキルは上がっていきます。
その次は、スコープ3です。
難易度が急激に高くなりますが、いつかはやらなくてはなりません。
「やるかやらないか」ではなく「いつやるか」です。
未来に残る企業へと、歩みを進めて参りましょう。
なお、検証を受けるノウハウについては、「第三者検証はじめの一歩」として10回シリーズでお届けしました。よろしければ、ご参照下さい。
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