ESRSリリースへ向けて一歩前進(2)
欧州委員会が現在パブコメにかけている、EFRAGが作成し、委員会が修正を加えたESRSの委任法草案について、説明しています。
その修正のポイントは、下記の3点でした。
前回は、1.について説明しました。
今回は、2及び3について説明していきたいと思います。
「2.中小企業などの報告負担を軽減すること」は、至極当然。
前回もご案内したように、CSRDの前身のNFRDが定めた開示のガイドラインが法的拘束力を有しないものであったのに対し、ESRSは法的拘束力を持つ訳ですから、リソースに限りがある中小企業に配慮するのは当たり前です。
従業員750人未満の企業には、スコープ3排出量と自社の労働力に関する初年度の開示(ESRS S1)、生物多様性(ESRS E4)、バリューチェーンの労働者(ESRS S2)の報告などを、 段階的に導入することとなっています。詳しくは、こちらの表にまとまっています。
「3.開示要求(DR)のほとんど全てを重要性の考慮の対象とすること」は分かりにくいですよね。
重要性(Materiality)とは、 もとは会計用語で、財務諸表に重要な影響を及ぼす要因のことを指します。これに倣って、非財務情報の開示に当たっては、ある活動が企業活動に重要な影響を及ぼす要因という意味で使います。
つまり、開示を要求されているそれぞれについて、各企業が「重要性」を判断し、「自社にとって重要である(マテリアルである)」と判断すれば開示し、そうでなければ開示する必要はない、ということです。
EFRAGが提案したESRSの初期草案に基づくと、多くのDRが「重要である」とみなされて、常に開示すべきとなっていました。欧州委員会はこのアプローチを見直し、ほとんどのDRに重要性評価が適用されることを明記したものです(ESRS 2を例外ですが)。
まぁ、恣意的に開示しないということは当然です。そこは「法令に基づく開示を適切に行う」という開示の基本に忠実であるべきですね。
パブコメは23年7月7日まで。最終的なESRS委任法(DA)は、寄せられたフィードバックを検討、7月末、遅くとも8月末には欧州委員会により承認されるものと思われます。欧州委員会がDAを承認した後、欧州議会および理事会に提出されて審議開始。
通常の審議期間(2ヶ月間程度、さらに2ヶ月間延長される可能性も)で採択されれば、ESRSは2024年1月1日に発効。企業は2025年1月から、ESRSに基づくCSRDの要求事項に従ってサステナビリティ情報を報告することができるようになる予定です。
国内では、今年26年10月から報告義務が始まる「CBAM」の方が話題に上がりますが、日本企業の実務においては、CSRDの方がよっぽど重要です。
これから年内一杯、目が離せませんね。