排出量算定従事者マストデータ〜その5
「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」をテーマに書いてきましたが、5回目まで来てしまいました。数式やらが多くなるので、分けて書いていたところ、回数が増えてしまいました。すみません。
1〜4はこちらです。
1次データが得にくいのはスコープ3の各カテゴリー共通の課題ですが、その中でも、廃棄物は入手困難。だからこそ、切り込んでいきたい。
そのために、IPCCガイドラインに沿って日本のインベントリを算定している報告書で勉強している最中でした。
5つの算定対象のうち、D.排水処理で打ち止めに致します。
A.固形廃棄物の処分
B.固形廃棄物の生物処理
C.廃棄物の焼却と野焼き
D.排水の処理と放出
E.その他
まず、この区分ではCO2の発生はありません。
算定対象は、メタンとN2Oです。
さて、排水処理、つまり下水処理における排出量。
これまでと比較にならないほど、タフな計算になるものと思っていました。
というのも、生活・商業排水は様々な排水処理施設(例えば、終末処理場や、生活排水処理施設、し尿処理施設など)で処理されてます。それでいて、メタンやN2Oがどのような割合でどの程度発生するかは、処理施設毎に異なるでしょうし。
ですが、読み通して納得。
あまりにも複雑なので、過去の研究を参考に、サンプリングで集めたデータを元に「国独自のデータ」を算出、それをデフォルトとし、以後アップデートはしていない模様。
今後の改善計画及び課題:特になし
というのが、笑えます。
排水処理は、国としてのプライオリティは低いのですね。
確かに、排出量は約370万トン、総排出量に占める割合は約0.3%。
ISO14064-3に準拠したASSETの検証ガイドラインでは、2%未満は少量排出源と見なして省略しても良いとしています。
GHGプロコトルでは明確にされていないものの、約1%を閾値にしています。
省略するか、あるいは、毎年一定値としても良い水準です。
それでも、毎年、活動量のデータを把握して計算しているので、検証に耐えうる算定を行っていると言えるでしょう。(というか、それ以上のレビューを国連でされているのですから、当然ですね)
以上を踏まえ、具体的にはどのように算定されているかについては、
1.終末処理場の水処理プロセス及び汚泥処理プロセス
2.し尿処理施設
の2種類を代表例としてご紹介しますね。
まずは、1.終末処理場です。
メタンについては、国独自のデータを固定値として、排出係数を算出。
これを毎年の活動量と掛け合わせて、排出量を算定しています。
N2Oについても、計算式は同じです。
ただ、排水処理方法に応じて発生量が異なるそうで、上記の「水処理プロセス(方式)iの排出係数」は、こちらを使うらしいです。
いずれにせよ、係数が固定値なのは同じですね。
続いて、2.し尿処理施設。
最近は、地方都市まで下水道が普及していますので、いわゆる「バキュームカー」は見かけなくなりましたよね。
子供ながら、あの業務に従事されている方は、においが落ちなくて大変だよな〜って思っていた記憶があります。
もとい、算定方法です。
メタンは、純粋に「排出係数✕活動量」
排出係数は、先ほどのN2Oと同じく、処理方法毎に異なっています。
ここもやはり「国独自のデータ」で固定値です。
N2Oについても、排出係数が異なるのみで、算定方法は同じ。
ただ、活動量の算出がテクニカルです。
以下に、計算式を示しておきますが、処理事業者でなければ、自社の活動量を把握して算定はしないと思いますので、参考までに。
ということで、長かった「廃棄物分野からの排出量」の算定レビュー。
お疲れ様でした。
今回分かったのは、初回の排出量算定では、環境省のデータを用いてスクリーニングを行うとして、その次の段階では、できるだけ廃棄物の種類及び処理方法毎の一次データを収集することにより、かなりの程度精緻な算定ができそう、ということでした。
今までは、法の遵守の観点から廃棄物処理業務を扱っていたところ、それに排出量算定のための「活動量(物量データ)把握」という視点を入れていきたいですね。金額ベースよりも、遥かに精度が上がります。
最終的には、処理業者とコラボして、独自の排出係数を求めたいです。
地道に活動していきますので、ご期待ください。