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「いつか来た道なのか」(2)

前回、4月4日開催の「第13回グリーンイノベーションプロジェクト部会」において、GX経済移行債による支援の条件として、GXリーグ参加が義務となった旨お届けしました。

GX経済移行債という「アメ」とGXリーグという「ムチ」を組み合わせた、うまいやり方ではありますが、ここに至るには、紆余曲折がありました。
実務には直結しませんが、Coffe Break代わりにお読み頂ければ幸いです。

さて、皆さんご存知ないかもしれませんが、排出量取引(ETS)は日本でも行われていました。

国レベルでは、2008年度から「試行的実施」を行いました。

ここで取引されたのは、国内クレジット(現在は、J-VERと統合されてJ-クレジット)と京都クレジット(CER)の2種類。

(参考)「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」の概要(環境省)より

キャップは「 参加者(目標設定参加者)が自主的に設定した目標」。
ですが、実態は、当時経団連が策定していた「環境自主行動計画」でした。
この「自主的な目標」の達成のために使用できるクレジットを生み出す仕組みが「国内クレジット」、達成する手段が「排出量取引の国内統合市場」だったというわけです。

2012年4月 国内クレジット制度の概要について(経済産業省・環境省・農林水産省)より 著者追記

国レベルとは別に、環境省も独自取組「自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)」を2005年度から実施していました。(2013年終了)

当時、私は国内クレジットやJVETSの検証を行っていましたが、「知る人ぞ知る」といった感じ。まさか、今のように「クレジットを創りたい」という相談を受けることになろうとは、ゆめゆめ思いもしませんでした(笑)

閑話休題、そんな中、2009年9月に民主党政権となり、迷走が始まります。

鳩山前首相が国連で25%削減を打ち出し、2010年3月に「地球温暖化対策基本法案」が閣議決定。「施行後一年以内を目途に国内排出量取引制度の成案を得るものとする」とされたことから、年内に具体的な制度設計をとりまとめるべく検討を進めたものの、年末にあっさりと、撤回したのでした。

とはいえ、25%の旗印を下ろしたわけではなかったので、環境省と経産省が、それぞれ、達成手段の検討を進めました。

環境省は、政府方針に沿って「排出量取引(ETS)」を粛々と進める一方で、
経産省は、産業界の意向を汲み、企業または業界が自ら排出量を決める「ボトムアップ方式」を中心とした政策のとりまとめにかかりました。

ですが、その後に起きた東日本大震災とフクシマで、ガラガラポン。
両省で担当していた官僚の皆さんも駆り出され、エネルギーが逼迫して「それどころではない」となったのは、皆さんもご承知のところでしょう。

まぁ、震災がなくても、両省がガチンコでやりあってましたし、産業界からは「また官が勝手にやってるよ」という感じで、協力しようというモメンタムはありませんでした。

今でこそ、「脱炭素なくしてビジネスなし」のような風潮がありますが、当時は皆無。「事業活動に介入してくれるな」という気持ちは良く分かります。


これが「来た道」です。
同じ轍を踏まない、という両省の意思の表れが「GXリーグ」だと考えます。

GXリーグはあくまでも民主導です。
事務局は野村総研で、環境省及び経産省はオブザーバーです。
賛同企業(現在は参画企業)が主体となって仕組みづくりを行いました。

ですので、政府としては「皆さんが作ったルールなので、守ってよね」となる訳です。「いつか来た道」を辿っていないということです。

このスキームは、GX-ETSに留まりません。

GXリーグは、参画企業の創発の場と位置づけられています。
個社では難しいルールメイキングでも、参画企業と協業で一体的に取り組むことにより実現することが可能となります。

実際、GXリーグ構想段階から複数のワーキンググループが立ち上がりました。元来、意欲的な企業が参画していますので、誰かが「この指止まれ」をすると、すぐに何社も手を挙げてきていたように思います。

第13回グリーンイノベーション部会 グリーンイノベーション基金事業の運営について より 著者追記

こちらから、参照できます。

この一つに「グリーン商材の付加価値付け検討 WG」がありますが、成果物の中で「⊿CO2」という概念の導入を提案しています。

第2回 産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会 グリーン商材の付加価値付け検討WG提出資料 より 著者追記

「⊿CO2(削減実績量)」というのは、自社の過去の製品と比較して削減できた「実績量」のことです。WBCSDが発表した「Avoided emissions(削減貢献量)」とは比較する対象が、平均的な製品である点で異なっています。

このWGは、経産省の産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会にて、この提言を紹介。

産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会 中間整理(別紙)より 著者追記

研究会での議論を経て、「削減実績量(Reduced Emissions of Product:REP」という名称で、中間整理に盛り込まれました。

産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会 中間整理(別紙)より 著者追記

これを知ったときは、私も「うまくやったなぁ」と思いました。
これも、GX-ETSと同じで、「民主導で決めたルールなので、産業界の以降を反映している」とできるわけですから。

GXリーグを「自主的な取組だから」と軽く考え、参加を見送っている企業も多数あるかと思います。「参加しなくても、自社でしっかりと削減活動を行っている」と。

もちろん、それでも良いかもしれませんが、ルールメイキングに関与できる、いち早く情報を入手できる、という参加メリットも大きいと考えます。自分が発起人となって、ワーキンググループを立ち上げることもできます。

今までは、上から降ってくる、すでに決まってしまったルールに従うしかなかったところ、自分たちの強みを活かすことができるルールを作ることができるとしたら、どうでしょう。

参加するには、人一人張り付けるくらいの負荷がかかります。
ですが、ルールセッター、スタンダードセッターというポジションは、変えがたいものではないかというのが、私の考えです。

GXリーグから、次はどんな提案が上がってくるのか。
中からウォッチしていきたいと思います。

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