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高品質なクレジットを目指して(2)

「安かろう悪かろう」ではありませんが、ボランタリーなカーボン・クレジットについて、ネガティブな意見や懸念する声があるのも現実。残念ながら、実体の無いクレジット、ウォッシュと捉えられても仕方の無いクレジットもあるようです。

しかしながら、質の高いクレジットであれば、企業はクレジットの購入を通じて、自社のバリューチェーン内だけでなく、バリューチェーン外での排出削減に貢献できます。これは、まさしく、SBTiがNet-Zero Standardで求めている、「BVCM:Beyond Value Chain Mitigation」でもあります。

このような背景の下、「高品質なクレジットの使用」について、いくつものイニシアチブが立ち上がっています。今回は、その中でも、注目に値するイニシアチブ「VCMI」をご紹介したいと思います。

VCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative:自主的炭素市場十全性イニシアチブ)は2021年7月29日に設立されました。同年3月31日に英国政府が設立を発表、CIFF(Children's Investment Fund Foundation)やビジネスエネルギー産業戦略省が共同出資しています。

企業等の非政府主体によるカーボン・クレジットの使用とその主張について指針を作成、米国の非営利団体である「Meridian Institute」が事務局です。
その他、運営委員会、専門家アドバイサリーグループが設置されています。

その指針は「The Claims Code of Practice (CoP)」と呼ばれ、カーボン・クレジットの自主的な償却に関連し、実行可能な目標や主張の種類、その透明性と信頼性を確保するための報告について、明確な指針を示すことを目的としています。

さて、その「VCMI Code」は4つのステップから成ります。

1.Meet the Prerequisites(参加の前提条件)
2.Identify Claim(s) to Make(主張の特定)
3.Purchase High-Quality Credits(高品質なクレジットの購入)
4.Rreport Transparently on the Use of Carbon Credit
  (透明性の高いカーボン・クレジット使用の報告)

それぞれ説明しますね。

1.参加の前提条件

追加的なカーボン・クレジットの使用が条件で、具体的には以下のことが求められます。

1.スコープ1〜3排出量を2050年までにネットゼロとすることを公約する
2.排出削減の中間目標を設定し、SBTiを参考に公表する
3.目標達成のための計画と戦略に関する詳細情報を提供する
4.GHGプロコトルに準拠した排出量のインベントリーを維持すること
5.支援活動がパリ協定に合致していることを、公的な声明として発表する

分かりにくいですね。書いている私も、よく理解できていません(笑)
さらに、第三者機関による検証が必要かどうかも不明。
6月7日にCoPのローンチイベントが行われ、今秋までの予定でロードテストが実施されていますので、徐々に詳細は明らかになっていくと思います。

2.主張の特定

2つの方法が用意されています。

1.Enterprise Wide Claims(企業レベルでの主張)

→企業の長期的なNet-Zero目標達成に加え、地球規模での加速的な排出量削減に貢献するために、クレジットを購入・償却することを主張するのですが、条件によって、Gold/Silver/Bronzeの3種類があります。

VCMI GOLD
・スコープ1〜3削減目標の中間目標を達成する見込みのあること
・高品質なクレジットを購入・償却することで、残余排出量を100%カバー
クレジット購入費用がかさみます。

VCMI SILVER
・スコープ1〜3削減目標の中間目標を達成する見込みのあること
・高品質なクレジットを購入・償却することで、残余排出量を20%カバー
GOLDよりはクレジット購入費用はかからないので、達成しやすいですね。

VCMI BRONZE
・スコープ1〜3削減目標の中間目標達成に向け順調なこと
・バリューチェーン排出量削減とクレジットの購入・償却の組合せで、中間
 目標に必要なレベルまでスコープ3排出量を削減すること
クレジットは使えるものの、最大50%及び2030年までという条件あり。

2.VCMI Carbon neutral brand-, product-, and service-level claims
(カーボンニュートラルブランド、製品、サービスレベルでの主張)

→以下の6つの条件を満足する必要があります。

(1) 組織全体で、ステップ1「参加の条件」を全て満たしていること
(2) GHGプロコトルもしくは同等のものに従い、部門・ブランド・製品またはサービスに関連するスコープ1〜3のライフサイクル排出量をカバーした、一般公開可能なインベントリーを維持すること
(3) 信頼できる基準のカーボン・ニュートラル・ガイダンスに従うこと
(4) 一定期間の回避できない排出量をカバーするため、高品質なクレジットを使用すること
(5) 誤った印象を与えたり、活動の有益な環境影響を誇張したりしないこと
(6) 第三者検証を通じて、1〜5の要件を満たしていることを証明すること

2.の6つの条件達成は比較的容易かと思いますが、1.は中々に難しい。SBTiの認定を受けている企業であれば、削減活動は既に着手していることなのでよいとして、残余排出量をカバーするためのクレジット購入のハードルが非常に高い。

「高品質なクレジット」は安くはありません。そもそも、Net-Zero目標達成に向けた削減活動で安くはない費用を拠出しているでしょうから、GOLDを主張できる企業は一握りではないでしょうから。

BRONZEをゲットするだけでも十分。とにかく、ステップ2をクリアしましょう。でなければ、次ステップへ進めませんからね。

さて、難しい話を長く書きすぎました。
なので、ステップ3とステップ4は次回へ回したいと思います。
少し頭を冷やしながら、気長にお待ちくださいませ。

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園田隆克@GHG削減サポーター
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