セメントセクターガイドラインリリース(5)
セメントSDAの説明5回目。
前回までは、こちらです。
今回は、算定に当たり留意すべき点についてご紹介したいと思います。
セメント業界において特殊な点として、セメントの中間製品であるクリンカ製造に廃棄物を利用できることが挙げられます。これについては、セメント協会のウェブサイトに、分かりやすい説明がありました。
つまり、熱エネルギー及び原料として廃棄物がリサイクルされるのですね。
「オープンリサイクル(カスケードリサイクル)」という位置づけになります。
廃棄物を出す側からすると「スコープ3カテゴリー12(販売した製品の廃棄)」の削減、廃棄物を利用する側(セメントセクター)からすると「スコープ1」あるいは「スコープ3カテゴリー1(購入した物品・サービス)」の削減というベネフィットが得られます。
どちらがベネフィットを享受するかは、参照する算定ルールにしたがうことになりますが、セメントSDAではこのようになっています。
つまり、クリンカ製造における廃棄物由来燃料の燃焼による排出量を、自社の全体の排出量から差し引いたらダメですよ、ということです。加えて、生物由来ではありませんので、別途報告ということもありません。しっかり、直接排出として算定しなければなりません。
なお、セメント協会の説明では、廃タイヤでは燃料としての利用以外にも、スチールが鉄分として取り込まれるとあるため、クリンカの原料としても利用でき、その場合は、カテゴリー1を削減している可能性もありますよね。
セメントSDAには「廃棄物由来燃料からの排出(EMISSIONS FROM WASTE-DERIVED FUELS)」という表現しかありませんので、これについては、排出量削減(購入原料の削減)として活用してもいいのではないでしょうか。
セメント業界の特殊点2つ目、「再炭素化(コンクリートカーボネーション)」
廃コンクリートなどからカルシウムを取り出し、それにセメント製造工程で排出されるCO2を吸着させて「炭酸塩(CaCO3)」にすることです。
このように、セメント業界はリサイクルの優等生なのですが、この「再炭素化」も削減量として算定はNGです。
ただ、セメントセクターの企業の皆さん、ご安心下さい。
短期SBTでは使用できませんが、長期SBT/Net-Zeroにおいては、セメントセクターにおける「中和」に使用できるよう、検討される予定です。
「中和クレジット」のようなイメージですね。
中和は、目標設定や基準年の算定よりも、長期的なネットゼロ達成のために事後的に行われるため、SDAでは 詳細なガイダンスが示されないだけです。
SBTiは、これらの措置を適切に処理するためのベストプラクティスの定義に関する今後の技術的議論と研究に参加し、貢献してほしいとしています。
以上、セメントセクター特有の事情を考慮した算定方法、条件について説明いたしました。先に紹介したFLAGもそうですが、確かに、一般的な産業セクターのガイダンスは使用しづらいですね。当該セクターの公開を急いだ理由も理解できます。
さて、次回は、これまたセメントセクターの特殊性を考慮した、セメント会社タイプ別目標設定について、具体的な説明をしていきたいと思います。