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ビジネス界が注目すべき2つのレポート

今年のCOP27では、気候変動対策への取り組みに対するアカウンタビリティ確保が、特にビジネス界にとって重要なテーマとなったことは論を俟たないでしょう。

2週間の会期中に、数百の報告書が発表されましたが、その中でも、個人的に、ビジネス界が最も注目すべきと考える報告書を2つ紹介します。

1.INTEGRITY MATTERS: NET ZERO COMMITMENTS BY BUSINESSES, FINANCIAL INSTITUTIONS, CITIES AND REGIONS/The High‑Level Expert Group(HLEG)

2.The Business for Climate Recovery: Accelerating Accountability, Ambition and Action/WBCSD

1.の「HLEGレポート」は、グテーレス国連事務総長の要請を受け、カナダの元環境気候相キャサリン・マッケンナ主導で作成されたもので、「グリーンウォッシュを排除し、産業、金融、その他非国家主体が、信頼性と説明責任を備えたネットゼロをコミットするためのハウツー本」だそうです。

2.の「The Business of Climate Recovery」は、WBCSDがHLEGレポート発表の翌日に発表されたもので、企業がバリューチェーン排出量について、野心的な目標を設定し、確実に削減していくロードマップを定めたものです。まぁ、HLEGレポートを実施するガイド本という位置づけでしょうか。

1も2も、40ページを超えますので(もちろん英語)なので、斜め読みがせいぜいではありますが、要約の要約をしておきますね。


まず、HLEGレポートでは、10の提言がなされています。

1.ネット・ゼロのコミットの発表
2.ネット・ゼロ・ターゲットの設定
3.ボランタリークレジットの活用
4.移行計画の作成
5.化石燃料の段階的削減と再エネの拡大
6.ロビー活動とアドボカシー活動の連携
7.人と自然に配慮した公正な移行
8.透明性と説明責任の向上
9.公正な移行に向けた投資
10.ネットゼロに資する適正な規制強化

HLEGレポートの「ガイド本」であるWBCSDレポートでは、脱炭素を約束する企業のアカウンタビリティについて、4つの段階が示されています。

1.Set Net Zero Target:TCFDを活用したネットゼロシナリオ策定
2.Climate Transition Plan:短期/長期目標計画の策定実施
3.Carbon Accounting:GHGプロトコルに基づく排出量算定
4.Reporting & Disclosure:ISSB及びGRIの枠組を通じた開示

さすが、WBCSDの作った「ガイド本」
GHGプロトコルやSBTi、ISSB、GRIといった馴染み深いイニシアチブへの言及、活用が示されていますね。

Corporate Carbon Accountability System as presented in WBCSD's The Business for Climate Recovery: Accelerating Accountability, Ambition and Action

WBCSDは、これらを実施するために、COP28に向けて3つの取組を加速させるとしています。

1.企業の気候変動開示制度の整合化
2.GHGプロトコルのアップグレード
3.企業の統一的な排出量集計システム開発

1.は、これまでもご案内してきた内容ですね。ISSBを核とする、開示項目アルファベットスープ状態の解消です。

2.は、「Scope3排出量の方法論とデータ交換プロトコルの開発により、算定システムの強固な基盤を構築する」とあるので、金額ベースから物量ベースでの算定へ移行できるよう、排出係数データベースの整備などが行われるのではと推測します。

物量ベースの算定においては、活動量の把握も困難なことに加え、高額なDBを使用せざるを得ないという現状が、さらに高いハードルとなっています。これに対する、ソリューションを「無償」で提供するという、「取組」であって欲しいですね。

3.は「企業データを各国の排出削減進捗報告書にリンクさせるため、グローバルな企業カーボンアカウンティング集計メカニズムを開発する」との説明がなされています。

COPでは、NDCに利用できるクレジットのモダリティの開発を決定していますので、それに接続するために、民間ベースで複数存在する算定ルールを互換可能とするようなシステムを開発するという意味なのでしょうか。

算定結果を入力すれば、GHGプロトコルやPACT、ISO、PEFCR向けの報告書を作成してくれる、夢のようなシステム?期待してしまいます。


さて、2つのレポートを読んできましたが、気になるポイントがあります。

1.絶対的な排出削減目標設定を要求している

SBTiのNet-Zero Standardでは、スコープ3排出量においては排出原単位目標も可能としています。それを「不可」としている算定ルールは、少なくともグローバルレベルでは無いのではないでしょうか。

2.スコープ1・2・3を対象としたネット・ゼロ移行計画を企業戦略に組み込む必要がある

つまり、SBTiのNet-Zero を全ての企業がコミットしなければならないということ。このレポートがどのような扱いとなるかは判りませんが、特にグローバル企業にしてみると、戦々恐々かもしれません。

3.誓約、パスウェイ、方法論のすべての側面を公開し、グリーンウォッシュへの批判に対処するため、第3者の監査を受けることを義務づけている

これについては、特に中小企業にとっては、影響が大きいでしょう。
そもそも、これらの企業は、ようやく算定に着手したかどうかと言うレベルです。「まずは、金額ベースで全体をざっくりと把握しましょう」と言う段階。検証なんて、マンパワー的にも費用的にも、ハードルが高いです。

4.公正な移行「Just Transition」を明確に謳っている

決定文書に「Implementation - pathways to just transision」が盛りこまれたように、「公正な移行」は、今回のCOPを象徴するキーワードでした。

企業は、中長期の事業計画策定において、最重要項目として取り扱う必要があります。決定文書パラ28及び29の訳を紹介しておきますので、目を通しておくことをお奨めします。

パラグラフ28
気候危機に対する持続可能で公正な解決策は、有意義で効果的な社会対話と全ての利害関係者の参加に 基づくものでなければならないことを確認し、低排出への世界的移行は持続可能な経済開発と貧困撲滅のための機会 と課題を提供することに留意する。

パラグラフ29
公正かつ公平な移行は、エネルギー、社会経済、労働力およびその他の次元を含む道筋を包含し、 そのすべてが国家的に定義された開発優先順位に基づいていなければならず、移行に伴う潜在的な 影響を緩和するために社会保護を含むことを強調し、適用される措置の影響を緩和する上で社会 的連帯および保護に関する文書の重要な役割を強調する。

5.OECD諸国は2030年までに、それ以外の国は2040年までに、新規探鉱の開発・探査、既存炭坑の拡張、石炭火力発電所の建設中止を要求していること、及び、その他の化石燃料については、例外なく即刻中止を要求していること

石炭とそれ以外を分けている点、及びOECD諸国とそれ以外を分けている点に、多少途上国の事情に配慮している様子が窺えますが、いずれも、COPにおいては「段階的削減」としているところを「中止」としている点は、一歩踏み込んでいると言えるでしょう。


いかがだったでしょうか。

「簡単・簡潔に」と思いながらも、やっぱり長文となってしまいました。
お時間のあるときに、読み通して頂ければと思います。

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