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保証業務を考える(1)〜合理的保証と限定的保証

1月に開催されたJICPA主催のISSA 5000に関するセミナーについて、2回に亘ってお届けしました。もしよろしければ、ご参照ください。

今回は、セミナーの後半で行われた、保証業務における重要な4つの論点についてのパネルディスカッションの内容についてお届けしたいと思います。

論点はこちら

1.合理的保証と限定的保証
2.重要性
3.将来情報
4.バリューチェーン

使用しているレジュメは、こちらのサイトにアップされています。
必要に応じてダウンロード下さい。

1.合理的保証と限定的保証

ISOに審査でも使われますが、そもそも監査で用いられる概念なので、会計の世界とは無縁な方にとっては、とっつきにくいところがありますよね。

JIS Q 14064-3(2023)には、次のように説明があります。

JIS Q 14064-3(2023)より

保証水準のことを表すもので、保証無しから絶対的保証までの範囲があり、その中間として、限定的保証と合理的保証が存在します。

金銭のやり取りが発生する場合には「合理的保証」が求められるため、会計監査は当然。環境価値を金銭価値に変換して取引する排出量取引である「J-クレジット」や、削減量をコミットして補助を受ける環境省の「SHIFT事業」も「合理的保証」がマストです。

詳しい説明は行いませんが、以前、環境省が行った説明会の資料が分かりやすいので紹介しておきますね。

平成22年度「企業・組織が行う温室効果ガス排出量の算定と検証に関する自治体等向け説明会」資料(環境省)より

今回のセミナーは会計士向けなので、モデレーターの太田氏の「期中が限定的、年度が合理的」という説明で、皆さん一様に納得されていました。

パネリストのあずさ監査法人 関口氏のレジュメも分かりやすかったです。
(投影資料を撮影したものなので、不鮮明ですみません)

この概念図のように、「合理的保証」はやるべきことが決まっていて、アッパーエンドのみを監査すればよいところ、「限定的保証」は手続きが一様で無く、見なければならない保証水準の幅が広いというのです。「合理的」では往査するサイトが多いという点での幅は「限定的」よりも広いのですが。

検証する側からすると、「幅広くと言ったって、どこまで確認すれば、アッパーエンド同等と言えるのか分からない」というのが実情ですし、受ける側からしても、「どこまで用意したら大丈夫か分からない」がホンネかと。

「限定的保証」では、「内部統制があることを確認すればよく、有効に機能しているかまでは評価しない」という説明があったのですが、これは驚きでした。

検証は、算定結果だけでなく、その過程、つまり、毎年確からしい算定が行われることを担保する実施体制及び、それを確実にする、社内における内部統制が機能していることの確認も、ISO14064-3は要求しているからです。

会計監査とGHG検証での相違については、別途調べてみます。

その他、「限定的保証」においては、どんな手続きがされたのかを確認し、理解することが重要との説明がありました。裏を返すと、報告者は算定手順を明確にし、検証人でも理解できるような言葉に落とし込んでおくことが必要ということですね。

これについては私もガッテンするところで、とにかく、専門用語が多くて、聞いていて「???」ということが多々あります。誰でも同じ作業ができるようにすることが手順書の目的なので構わないのですが、「社内の常識非常識」とわきまえ、社外の人間には一般的な言葉で説明してほしいです。

さて、サス情報は財務情報と比較すると正確性、信頼性が圧倒的に低いので、「合理的保証」を求められても、報告側、検証側、いずれにとってもハードルが高い。とは言え、開示内容が経営に影響を及ぼす可能性があるため、本来は「合理的保証」であるべき、というのは正論ではあります。

この点について、気になるのは国内外において報告を受ける側が、どちらを要求するかでしょう。

事前質問でも寄せられていたようで、モデレーターがパネリストに振ったところ、仏監査人協会議長の方が「オムニバスプロジェクトを考慮すると、当面合理的保証は要求されないのでは?」というのが刺さりました。

このプロジェクトは、CSRD、CSDDD、EU Taxonomyの3つの法案を一つにまとめて規制の簡素化を進め、報告義務を最低25%軽減するというもので、昨年11月に採択されたブダペスト宣言に基づくものです。

フォン・デア・ライアン欧州委員長は、オムニバス簡素化パッケージ(Omnibus Simplification Package)を2月に発表を予定しているそうです。

なるほど、簡素化を進める中で、それも、始まったばかりのサス情報開示において「合理的保証」を要求するのは無理筋でしょうね。

インドやブラジルのように「合理的保証」を求めている国もあることから、「今後はコンバインド型が増えていくだろう」と予測していました。

とりあえずは「限定的保証」に耐えうる報告の準備をしておくことが肝要。ですが、エビデンスが揃っていなければ「限定的保証」も得られません。ハードルは相当高いです。入念な準備をお願いします。

ということで、パネルディスカッション、1つ目のテーマ「合理的保証と限定的保証」についてお届けしました。次回は、2つ目のテーマ「重要性」について紹介していきます。お付き合いくださいませ。

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園田隆克@GHG削減サポーター
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