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セクター別ガイドラインについての考察

昨年2022年は、セクター別ガイドライン(SDA)のリリースが相次ぎました。タイムリーとは言えないまでも、noteでも、紹介してきました。

鉄鋼セクターについてはドラフトでした。

SBTiは、ロードマップも公開しています。
赤で囲ったものが、2022年にファイナライズされて公開されたものです。

Sector-specific projectsより

ロードマップにないセクターの場合、SBTi認証を受けることができないかというと、そうではありません。SDAは特別な事情を考慮した個別的アプローチであり、セクター横断アプローチであれば、どのようなセクターに属していても利用可能です。

SBTiは、誰もが目標を持って排出量削減に取り組むことを企図しているイニシアチブです。様々な方法論を用意していますので、まずは、「Getting Started with Science Based Targets V2.0」の3ページを参照して、自社に適した方法論を確認しましょう。

Getting Started with Science Based Targets V2.0より

なお、ステータスが「In Development」であっても、先般紹介した鉄鋼や、航空、輸送のように、ドラフトが存在するのであれば、敢えて他の方法論を選択しなくても良いかもしれません。特に、コミットメントレターを出して間もないのであれば。

無駄にはならないとは思うものの、SDAを開発しているということは、SBTiとして当該セクターの排出量削減が重要であると考えているということであり、公開された後は一定の猶予期間後(普通半年程度)に、SDAでの目標設定が求められることになるからです。

セメントやFLAGのSDAを見ても分かりますが、当該セクターに固有な事情を考慮した個別具体的な内容が盛りこまれるはず。ドラフトを見ながら、社内のデータ収集ルート整備をしていた方が賢明かと。


では、ドラフトもない場合はどうしましょう。

まず、建築セクターは、23年の前半にはドラフトがリリースされるのではないでしょうか。遅れても7月くらいにローチウェビナーを開催、パブコメを実施した後ファイナライズ、24年、年明けにリリースなのでは?

であれば、鉄鋼と同様の対応でも良いかもです。

建築セクターガイドラインのロードマップ

他方、化学セクターは、クロスセクターアプローチを用いて、目標設定に着手する方が得策と考えます。(未着手であれば)

ロードマップを見ても分かるように、ホットスポットとなっているサブセクターを特定し、そのサブセクターにおけるSDAを開発するところから始まっています。

化学セクターガイドラインのロードマップ

というのも、製品の多様性、原料としての炭化水素の使用、業界が異質でありながら相互に関連する多くのサブセクターがあることにより、業界全体でSBTを設定するための単一の包括的な方法を確立することは困難と考えているからです。

とはいえ、化学セクターは、産業部門において3番目に排出量が多い。低炭素化、脱炭素化を推進するに当たっては、増加し続けることも予想されます。換言すれば、地球温暖化を1.5℃に抑えるために重要な役割を担っているセクターということです。

科学的根拠に基づく目標(SBT)を通じて気候変動対策に取り組むことは、バリューチェーン全体で持続可能性の向上を推進することになります。世界の主要な化学企業は、広範な科学的根拠に基づく目標イニシアチブ(SBTi)の基準を満たすSBTを設定し始めています。化学会社ではSBTの設定が奨励されていますが、セクター別のガイダンスは現在策定中です。

化学セクターガイドライン ウェブサイトより

「SBT目標設定はやってね、SDAはまだだけど」ってどういうこと?

と思わずにはいられませんが、だから、SDAに頼らずに目標設定はやっておきましょう、とご案内したのでした。


さて、脱炭素化において最も優先すべき、重要なセクターである「オイル及びガス」はどうでしょう。

安心して下さい(?!)
申請どころか、コミットメントレターも受け付けてもらえませんから。
過去にコミットしていても、削除されています。

手法の発展途上のため、化石燃料セクターの目標の検証を一時停止するという既存のSBTiの方針に加えて、これらの企業からのコミットメントも一時停止します。この期間中、下記1.1に該当する企業や子会社からのコミットメントは受け付けられません。この方針は直ちに有効となり、石油・ガスセクターの企業による過去のコミットメントの削除は完了しました。

オイル及びガスセクターガイドライン ウェブサイトより

競合他社も、認証を受けることができませんので、イーブンという訳です。
ドラフトはリリースされてはいるものの、このセクターについては、ウォッチングしておく他は無さそうです。

オイル又はガスを取り扱っているからといって、当該SDAが完成するまで、全てSBTiに参加できないというわけではありません。サイトには、このような説明があります。

1.SBTiにコミットできない企業

1.1  石油、天然ガス、石炭、またはその他の化石燃料の探査、抽出、採掘、および/または生産に、これらの活動から生じる収益の割合に関係なく、あらゆるレベルで直接関与する企業。
  すなわち、総合石油・ガス会社、総合ガス会社、探査・生産専業企業、精製・販売専業企業、石油製品販売会社、ガス販売・小売業者、および従来の石油・ガスサービス会社(以下のカテゴリー2に記載されている場合を除く)など。

2.SBTiに参加可能な企業


2.1 a) 化石燃料の販売、輸送、流通、または b) 化石燃料会社(1.1 参照)への機器またはサービスの提供から得られる収益が50%未満の企業。
2.2 商業目的を持つ採掘活動のための化石燃料資産(炭鉱、褐炭鉱など)からの収益が5%未満の企業。
2.3 自家発電のために石炭を採掘する電気事業者。
2.4 化石燃料企業(1.1参照)の子会社は、子会社自体が化石燃料企業とみなされない場合、SBTiに加入することができる。

また、コミットできなくても、脱炭素活動はもちろんできます。
透明性のある開示をすれば、ステークホルダーにも響きます。


個人的な感触ですが、このセクターは、だからこそ危機意識が高い、だからこそ率先して脱炭素化を推進している、ビジネスチェンジを図っていると実感しています。他意はありませんが、座して待っていると、フィルム業界の○○○○と同じ轍を踏むかもしれない。

10年以上前になりますが、UAEのアブダビを訪れた際、マスダールシティについて説明を受けました。今でいう、スマートシティですが、「原油収入に頼らない国を創る」との主張には説得力がありました。

かの国のプロジェクトには、賛否両論、様々な意見があるのは承知していますが、デカすぎるほどの(?!)ビジョンを打ち立てて、強力に推進する姿勢は評価しています。

夢物語ではなく、未来を変える可能性がある技術、プロジェクトには、First movers coalitionやBreakthrough Energy Catalystなどのサポーターがついてくれます。

SBTiが、可及的速やかに削減が行われるべきと考えているセクターであるところ、難産となっているのが「オイル&ガス」コンセンサスを得ながら進めざるを得ないという事情があればこそ、それを脇に置いて、やれることから実施しておくべきフェーズに来ていますね。

COP27における、ノンステートアクターの活躍には目を見張るものがありました。山を動かしたのは、締約国の代表団ではなかったのです・

SBTiという大本営が動けないときこそ、それぞれのアクターの出番。
ゼロカーボンへのムーブメントを起こしていきたいものです。

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