見出し画像

海運セクターガイドラインリリース(2)

2022年に相次いだSDAのしんがりを務めた海運セクターガイドラインについて、説明をしております。1回目は背景紹介で終わっておりました。2回目からは具体的に、中身を見ていきたいと思います。

まず始めに、言葉の定義から。

LCAにおいてシステム境界を定義する際に、「Cradle-to-grave」とか「Cradle-to-gate」という用語を用います。それぞれ、「原材料の採取から製品を使用して廃棄するまで」、「原材料の採取から工場出荷まで」という意味です。

GHGの算定では、自社の排出量の場合「Cradle-to-Grave」、顧客に製品単位の排出量を提供する場合は「Cradle-to-Gate」を用いると思います。

このように、算定を行う場合には、その範囲(バウンダリ)を確定する必要がありますが、海運セクターの組織の排出量算定では「Well-to-Wake(油田から航海まで)」という用語(概念)が登場します。

1. 「WELL-TO-WAKE(WTW)」とは?
「Well-to-Wake」とは、燃料を生産し、輸送し、船上で使用するまでのプロセス全体と、そこで発生するすべての排出物を指します。

・原材料の取得:必要な原材料(例:石油、ガス、バイオマス、水素、二酸化炭素)の採取・入手・収集および燃料製造施設までの輸送に伴う排出
・燃料生産:原材料を船舶燃料に変換する燃料製造プロセス(例:精製、発酵、電解、合成)からの排出
・輸送及び貯蔵:パイプライン、トラックまたは船舶を介する陸上、岸壁および沖合の貯蔵施設ならびにバンカリング施設への海洋燃料の輸送からの排出(場合により、圧縮または液化を含む)
・バンカリング:貯蔵施設から船上タンクへの船舶燃料の移送による排出
・船上貯蔵:船舶燃料が、特定の温度および圧力条件下で船上に保持されている間に発生する排出
・エネルギー変換:船舶が運航および操業する際に、船上で燃料を使用することによる排出(GHGを直接大気環境に排出する)

ビューローベリタス ウェブサイトより
ビューローベリタス ウェブサイトより

「Cradle-to-Grave」と同じですね。ガソリン車だったら「Well-to-Wheel」になる訳です。「Cradle-to-Gate」に対応するのは「Well-to-Tank(油田から燃料タンクまで) 」これは、ガソリン車でも同じ。「Tank-to-Wake」「Tank-to-Wheel」も想像つくでしょう。


それでは本題、このSDAを利用できるバウンダリーを確認しましょう。

ローンチウェビナー資料より

このように、物品だろうが人だろうが、船舶を使用するのであれば、運ぶ対象に制限はありません。FLAGやセメントなどのように、神経質になる必要は無いですね。金融セクターのように、収益も無関係です。

ローンチウェビナー資料より

「Cargo shippers/Logistics Service Providers」で算定しているのは、船舶を利用した「出張」「通勤」であり「輸送」ですよね。

その他のSDAと同様に、目標設定ツールが提供されています。

運航する船舶の種類とサイズ、及び基準年と目標年、加えて、基準年の排出量を入力すると、自動的に目標年に至るまでの排出量のパスが描かれます。

なお、

1.5℃目標の削減パス

スコープ1・2については、1.5℃目標しか受け付けてもらえません。それ以外で既に認証を受けていたとしても、次回更新時には1.5℃目標に変更しなければなりません。

WB2℃目標の削減パス

スコープ3については、まだWB2℃目標でもOK.

さて、上図を見て頂くと分かるようにのように、パスは「2040年」までしか描かれていません。前回ご案内しましたが、海運セクターは、発電セクター同様、長期SBTの目標年は40年となっているからです。

このセクター特有の要求事項は、このようになっています。

SBTi Maritime Guidanceより

短期SBTの目標年も条件があり、2030年以降となっていますね。

共通のクライテリアはもちろん遵守する必要があることに留意しましょう。

C13 — 基準年と目標年: 目標は、それを SBTi に審査のために提出した日付から最短 5 年以上、 最長 10 年以内を対象とすることが必須です(must)。基準年については、2015 年より前を選択して はなりません(must not)。

SBTi Criteria and Recommendations

なので、共通ルールでは、2023年前半に正式な審査のために提出された目標の場合、有効な目標年は 2027年から2032年まで、2023年後半に提出された目標の場合、有効な目標年は 2028年から2033年までとなるところ、海運セクターガイドラインを使用すると、30年以降に設定しなければなりません。

次回は、算定ツールの具体的な使用について見ていきたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!

園田隆克@GHG削減サポーター
もしよろしければ、是非ともサポートをお願いします! 頂いたサポートは、継続的に皆さんに情報をお届けする活動費に使わせて頂きます。