カーボン・クレジットマーケット元年
先月末、JPXが「カーボン・クレジット市場」の開設日を発表しました。
メディアが一斉に伝えましたので、皆さんもよくご案内のことでしょう。
2022年9月から2023年4月まで実施した試行事業では、実証参加者は183者、実際に注文したのは60者、売買が成立したのは55者だったとのこと。活況とは言えない状況ではありましたが、本稼働ではどうでしょうか。
取引対象は、当面はJ-クレジットのみですが、JCMやGXリーグの超過排出枠にも対象を拡げたいとしています。また、立会外取引も想定するそうです。
JPXの開設する市場は、ETSではありません。この点に留意してください。
ETS(Emission trading scheme)は、参加者は規制当局から排出上限(Cap)が課せられ、それが達成できない場合は「排出枠(Allowance)」を購入(Trade)することで、形式的に達成したことにできる「市場メカニズム」です。
ETSは、上限を政策的に漸減することで、確実に総排出量を削減できます。
ですので、ETSは対象セクターの企業の参加は義務化されるべきですが、GX-ETSはボランタリーなので、「ETSではない」「削減につながらない」と批判されるのです。
上記を踏まえた上で、一般的な「カーボン・クレジット市場」の目的はと考えると、大きく分けて3つあると思います。
これまでのクレジットの売買は相対で行われていました。
ですので、どんなクレジットが、いくらで、どこで販売されているのかが不明でした。こんな商品が売れるわけは無いですよね?
それに対するソリューションが、カーボン・クレジット市場なのですが、JPXの場合ではどうでしょうか?
一定量の流動性が確保できれば、価格シグナルの提供はできると思います。
ただ、現在公開されている「カーボン・クレジット市場参加者」は188者。
リストを見ると、電力やガスなどのエネルギー企業や金融機関、プロバイダーが多数を占めています。企業でもJ-クレジットを有していますし、森林公社や森林組合連合会、自治体も入っているので「売り手」がいないとは言いませんが、「買い手」過剰なのは確実でしょう。
それでは、発せられる「価格シグナル」は活用できるのでしょうか?
JPXで売買の指定ができるのは、区分毎です。
特定のクレジット毎ではありません。
株式市場でいうところの、ETFしか指定できないのです。
個別株ではないんですねぇ。
売買の区分は、下表の「大分類」になります。
試行事業において、方法論毎(小分類)に指定できるようにしていたところ、売りと買いの注文が一致せず不成立になりがちだったため、大分類だけに絞ったところ取引成立が格段に増えたことを踏まえた措置です。
このように、取引成立を主目的とした制度において売買が成立した際の「プライス」は果たして有用でしょうか?
何が入ってるか分からない福袋を、価格だけで判断して購入するようなものに思えて仕方ありません。
透明性と情報提供も、同様の理由で甚だ疑問。
区分だけで、何が販売されているか全く分かりません。
どのようなプロジェクトから生まれたクレジットで、その購入がどのようなベネフィットを生み出すのか分からなければ、そもそも、価格なんてつけられません。
「J-クレジットとして認証を受けている」ことで、一定程度の信頼性は担保されますが、それ自体が価格を形成する要素ではないでしょう。
これであれば、森林吸収のみにはなりますが、以前私が協力していた、EVIの方がよほど「カーボン・クレジット市場」の目的に合致します。
J-VERを所有する自治体や森林組合などの事業者から預託を受けて販売するもので、希望する森から生まれたクレジットを、1トン単位だけでなく、1円単位でも購入できます。
直接預託を受けていますので、事業者とは密にコミュニケーションをとり、プロジェクトのストーリーを積極的に紹介しています。
ですので、判断材料が豊富にあるため、自社の目的とマッチしたクレジットを購入することができるのです。私は「ふるさと納税ですよ」とご案内していました。
そんな中、アスエネさんがSBIと合弁会社Carbon EXを設立し、カーボンクレジット・排出権取引所のサービスを開始したというニュースに接しました。
詳細は分かりかねますが、セールスフォースの「Net Zero Marketplace」のようなものでしょうか。プロジェクト実施者の顔が見えるような紹介がなされているのであれば大歓迎。
また、BeZero のレーティングも導入するというので、「高品質なクレジット」を提供することに配慮されているものと推察。
個人的にも、活用させてもらいたいですね。
個人事業では、こんなことはできませんから(汗)
さて、色々と、JPXに対して苦言を呈してしまいましたが、手軽に安くクレジットを入手したいという需要があることも承知しています。
JPXで取引が行われるという事実は非常に大きく、普及推進に当たっての起爆剤になることは確実だと思います。これをきっかけに、マーケットが拡がり、様々な選択肢が提供されるようになってほしいです。
黎明期から見てきた自分からすると「ようやく」という感じですが、これから一層クレジットを活用した地域の活性化に邁進していきたいと思います。