GX-ETS制度設計始動(1)
政府は、GXの実現に向け、成功志向型カーボンプライシング構想の具体化を進めていますが、2026年本格稼働を前に、GX-ETSの具体案に関して、有識者や産業界の意見を踏まえた検討を行うWGを設置。その第1回会合が、9月3日開催されました。
内閣官房は、金融庁のようにライブ配信のみで無くアーカイブを残してくれるし、環境省のように資料のアップロードが遅いということもないので、好感が持てます。経産省(エネ庁)も同じ感じですね。
個人的には、非常に期待しています。
というのも、委員の皆さんの顔ぶれが、排出量取引やクレジットについて、黎明期から携わってこられた錚々たる方々だからです。
排出量取引は、2008年のJVETS(Japan Voluntary Emissions Trading Scheme、国内自主排出量取引制度)まで遡ります。この制度は、温室効果ガスの排出削減を目的として、企業や団体が自主的に排出削減目標を設定し、その達成状況に基づいて排出権の取引を行うものでした。
JVETSは「自主的」参加でしたが、2010年度からの東京都排出量取引制度、2011年度の埼玉県排出量取引制度は、要件を満たした事業所の参加が「義務化」されている、コンプライアンス市場です。東京都は、確実な削減に結びついていると、国際的にも認められています。
クレジットは、J-クレジットの前身である、国内クレジット及びJ-VERが始まった2008年(本格稼働は2009年度)が最初です。J-VERについては、「高知県J-VER」や「新潟県J-VER」といった、地方版も存在しました。
京都議定書第二約束期間に日本が参加しなかったことから、国内クレジット及びV-VERは法的裏付けを失い、J-クレジットとして一つ屋根の下に収まって仕切り直し。この際、地方版J-VERは、それぞれ「高知県版J-クレジット制度」「新潟県版J-クレジット制度」に衣替えしました。
排出量取引制度としては、2008年から国主導の「試行排出量取引スキーム」が実施されており、そこで取引されるのが、国内クレジット及び京都クレジットでした。
排出量取引の要諦である「キャップ」は、大企業が参加している経団連の「自主行動計画」(現在の「低炭素社会実行計画」)。あくまでも「自主」なのに、これをお上が「守れ」と押しつけ、未達であれば「クレジットを購入しろ」、というトンデモな試行事業でした。
排出量削減が進んでいない中小企業に対するファイナンシングが目的だったのですが、未達の大企業は皆無だったことから需要は無かった反面、中小企業としては、補助金によりほとんど手出し無しでクレジットを作ることが可能であり、需給バランスがとれていませんでした。
ですが、当初は、売り手の中小企業と買い手の大企業が、セットで申請する必要があったため、制度が中々普及しません。ということで、この縛りを無くしたところ、供給過多となり価格が下落、さらに制度利用者が少なくなったところに、東日本大震災が襲ったという変遷を経ました。
しかしながら、この期間も排出量取引制度の議論は継続して行われており、それでも日の目を見なかったところ、皆さんもご承知の通りの、気候変動対策、脱炭素化、バリューチェーン排出量算定のムーブメントです。
委員の先生方を始め、当時から携わってきた関係者からしてみれば「いつか来た道」「議論は尽くした」という感覚もありますが、だからこそ、2026年度から本格稼働する「GX-ETS」の制度設計は、グローバルに通用するものでなければならない、という危機感があるのです。
ということで、カーボンプライシングの議論についての簡単な歴史を紹介しましたので、次回は、WGの内容に入っていきたいと思います。