高品質なクレジットを目指して(3)
VCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative:自主的炭素市場十全性イニシアチブ)が、カーボン・クレジットの使用に際し、その透明性と信頼性を確保するための指針「The Claims Code of Practice (CoP)」の案が発表され、現在パブコメが終了し、内容を精査していると思われます。
このCoPについて、前回から紹介しています。
その「CoP」は4つのステップからなっておりまして、1と2は紹介済。
1.Meet the Prerequisites(参加の前提条件)
2.Identify Claim(s) to Make(主張の特定)
3.Purchase High-Quality Credits(高品質なクレジットの購入)
4.Rreport Transparently on the Use of Carbon Credit
(透明性の高いカーボン・クレジット使用の報告)
ということで、今回は3と4を紹介していきたいと思います。
3.高品質なクレジットの購入
ようやく、「購入」ステップ。
まず、認識して置かなければならないことがあります。それは、「VCMIは、高品質なカーボン・クレジットに関する詳細なガイダンスを提供しない」ということです。
「高品質なクレジットは何なのか?」については、CORSIAやIC-VCM、パリ協定6条の関連ガイダンスが基準となるとのこと。
基準は提供しませんが、クレジットが備えておくべき性質は示しています。
1.認知され信頼できる基準設定機関と連携していること。また、先住民や地域社会を含むステークホルダーとの協議の場を有していること。
2.高い環境品質を有していること。
・追加性
・第三者認証機関による検証
・MRV
・永続性
3.人権に適合していること。
・社会的地位による差別がない
・ジェンダーの平等と女性の保護
・労働、健康、教育、適切な生活水準、経歴、安全に関する権利を保護する
・Free Prior and Informed Consentの原則
・先住民に関する権利の保護
4.SDGsに示されるような公平性を促進するとともに、地域社会にとって好ましい結果をもたらし、社会的セーフガードを遵守すること。
5.環境の質の保護と向上に貢献するものであること。
・悪影響を回避、最小化、緩和する環境セーフガードを含める
・プロジェクト管轄区域の環境法に遵守する
・環境コベネフィットを生み出すよう努める
こう見てみると、あまりの「質の高さ」に目を見張りますね。
これは「1.認知され信頼できる基準設定機関」に期待するしかない。
つまり、VerraやGS等のクレジット運営主体が、VCMIが要求する「高品質なカーボン・クレジット」に合致するクレジットのクライテリアを公表する。
プロジェクトオーナーは、クライテリアに沿ったクレジットを創成する。
クレジット購入者は、合致したクレジットを購入する。
このステップは「購入」の場面ですから、運営主体がリスト化している認証済みのクレジットから選択して購入することになるでしょうね。
4.透明性の高いカーボン・クレジット使用の報告
主張を裏付けるためには、透明性のある情報報告が不可欠であるとし、以下の6点について、一般公開される年次のサスティナビリティ報告書等で、報告することを求めています。
1.主張するために購入・償却したクレジット量
2.使用したクレジットの認証基準名、プロジェクト名、クレジットのID等
3.ホスト国(プロジェクト実施国)
4.クレジットのビンテージ(プロジェクトが実施された年)
5.方法論、プロジェクトの種類
6.クレジットの相当調整の有無
IFRS S2 気候変動関連開示案や、米国証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則案、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)のサステナビリティ情報開示基準においても、カーボン・クレジットの使用に関する情報開示を求める流れがあります。
これからは、気候変動関連のみならず、持続可能性や、人的資本などなど、様々な情報の開示が「義務化」されていきます。このような動きを常にウォッチしながら、社内の体制を整備していくことが重要でしょう。
ということで、VCMIが提案するCoPの4ステップ、ご紹介してきました。
パブコメは締切は8/12となっており、年内にファイナライズ、年明けに正式発表というロードマップになっています。
VCMIの特長は「高品質なクレジットの定義」をしていないことです。
「高品質なクレジットの使い方」を定義していると言えます。
ですので、「高品質なクレジット」を担保するイニシアチブや、「高品質なクレジット」を創成する運営主体にとっては、ウェルカムでしょう。
なぜなら、VCMIにしたがうことで、グリーンウォッシュではないか、実体の伴わないクレジットではないか、と言う批判に立ち向かうことができるからです。すなわち、普及拡大が図れるのです。
「高品質なクレジット」が広く利用可能になれば、CDPが求める「BVCM」が拡大し、ひいては地球規模での排出削減につながるでしょう。
年内にファイナライズ予定ではありますが、11月に開催されるCOP27でのパリ協定6条の議論の進展も、影響を及ぼすことが考えられます。
これからの半年、クレジットの話題から目が離せませんね。