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家路|散文

ここは瀬戸内海を見渡す古い石畳が残る坂の多い街
どこぞの国の艦船がこちらに砲台を向けのんびりとしている
下駄の音をからころさせながら坂を登ると
血の色みたいな真っ赤な夕日がすべてを染めていて
僕はそれが五月蝿くて耳を塞ぎきつく目を閉じると
神奈川の山深い早朝前の岬の中にぽつんと居た
夏といってもその時間の空気はとても冷たく涼やかで
僕は港のあるところまで歩こうと試みたのだけど
森は深くなりやがて時間も逆行しだし
ついには自分と影の判別も出来ないほどの暗闇の中
どこにも繋がらない小さな港へと辿り着いた
所在を知ろうと電信柱の表示を見ようにも
影と重なった僕の視界は判然とせず
ただ全てを塞ぎ懐かしい家路を強く思い起こすのだった

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