七夕に寄せて
ここ10年ほど、年に1度ホスピスでコンサートをしていた。昨年と一昨年はちょうど七夕だった。自分の弾くピアノに合わせて、鈴で星の音風景をつくって頂いた人たちはもうこの世にはいないのだろう。本当に星になったのだと思うと不思議な気持ちになる。
最初の頃は完璧な演奏を一方的に届けようと必死だったけど、途中から一緒に音を出す方向に変わった。「死」は特別なことではなく、日常の延長線上にあるのだと心境の変化があったからだ。
そしてこの10年、私のピアノを聴いてくださった人たちは、ひとり残らず星になってしまったのだ。
昨年は宮沢賢治の『星めぐりの歌』を弾いた。コンサートの後、旦那様が押す車椅子の婦人が「ありがとう、まさかここでこの曲が聞けるとは思わなかった」と泣いていた。
ピアノを弾くと「ありがとう」と言われることが多くて恐縮する。人前で弾くことは実は好きではないし、お礼を言われているのは100年歌い継がれてきた、この小さな音楽たちなのだと思う。
そのコンサートも今年は11年目にして初めて中止。星になった人たちに向けて、家でひとりピアノを弾こう。
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