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Beyond the End.


あの日私は死んだ。
晩夏に終わりを迎えていた。
死んでいると今更気が付いた。
十分に終止符を打てていなかった。

これをもって正式に
私は、私自身へ終わりを告げる。



急に生活が変わった。
バイトに行かなくなった。
めんどくさい店長と会話をしなくて良くなった。
重い皿を運ばなくても良くなった。

中学生に先生と呼ばれなくなった。
楽器を触る機会がなくなった。

古い自分が薄れていく。


なくなったことで喜びを噛み締めることがあれば
なくなったことで寂しさを感じることもあった。




なにもかもなくなった。
私から去ったのだ。
死んでなお、過去を捨てるのを拒む私がいる。

昔の日々が少し愛おしく思う。
かつての苦悩の日々を想う。
あの人を想う。

でももう私はそこにはいない。
私は死んだのだ。
死んだら生まれ変わる。
死ななければ、生まれない。

だから、ちゃんと終わりを見つめよう。
終わりを受け入れて。
終わりを味わおう。
終わりを祝おう。
私は終わりに立っている。

死ぬことは怖かったけど、
死んで良かった。
終わりの地点に触れられて良かった。
終点駅で線路の端を見つけたような。
何事にも終わりがあるから、安心できる。
心に建てた墓石をやさしく撫でる。




次のステージなんてのは考えない。
古くて重い過去を捨て去って、
休息の地に横たわる。
たまに歩いたり、美味しいものを食べたりして。
魂をゆらゆらさせて。
私は体を持たざるもの。





死んでからしばらくして
早く生まれたい と咽び泣いている。
誰かの働きぶりを見る。
友達の働きぶりと今の自分を交互に見る。
友達の仕事など見たこともないのに。
今はただ宙ぶらりんで
どっちが前だかわかっているのに
進み方が分からない。
胸のあたりから湧き出るどす黒い雲は、私を蝕んでいく。
混沌が付き纏う。
私はそれをただ眺めていた。
雨が止むのを待っていた。
すべてのことは必ず終わりへ向かうから。


ここでは焦ってはいけない。
他の誰かと比べてはならない。



いつ、どのような姿で生まれるか
その時まで分からないけれど
魂に従っていれば
いつか新たな自分にたどり着く
蝶を追いかけるみたいに









私は生まれた
突然生まれた
「生まれる」の定義がわかっているのは私だけ
死んだと知っていたから生まれたとわかった
生まれたからには、精一杯生きる
まだフィットしていなくて
うまく歩けない
ここがどこだかわからない
なんだか泣きたくなる
そうしたら、抱き上げて
頬を寄せながら機嫌が戻るのを待つ
こうしてまた新しい自分を育てていく



半年前はすっかり前世
約束通りまた生まれてこれたから
今の私を最大限生きていこうと思える
そしてまた何度でも終わりを迎え
そしてまた何度でも生まれ変わる


だから安心してね

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