地域との関係性を丁寧に紡ぎ、誰もが楽しいと思えるまちを醸成する-(有)原田呉服店 代表 原田弘志さん-
conneは南九州市の空き家と移住の総合案内所です。『conne channel』では南九州市内で事業を営む地域の人や移住者として新しい取組に挑戦する人などを紹介し、まち・ひと・想いの見える化を進めていこうと思います。こちらを通して、少しでも南九州市の暮らしや営みに興味を抱く人が増えたら嬉しいです。
異業種と手を取り合い、地域を盛り上げるために
弘志さんは頴娃町生まれ。実家は石垣商店街で呉服店を営み、両親と妹2人の5人家族で育ってきました。中学校卒業を機に、将来的に家業を継ぐことを考え、高校は鹿児島市内、大学は福岡県内へ進学し、商学について学んだといいます。
そして、就職は福岡県内のデパートへ。食器や陶器、婦人服の部門に配属され、接客や経営のノウハウを学んだ後、29歳で頴娃町へUターンすることになります。
Uターン後は家業を手伝いつつ、地域の消防団や商工会青年部にも加わり、地域活動も精力的に行ったそうです。
寄せ鍋クラブとはまちの異業種が集まり、イベント企画や勉強会を開催するなどして地域を盛り上げるために活動していた団体のことです。
平成の大合併(※)を機に『NPO法人頴娃おこそ会』(以下:おこそ会)に名前を変え「後継ぎのいるまち」という理念を持って活動を展開してきました。
弘志さんが最初に関わったプロジェクトはまちをPRするためのマップづくり。当時、Uターンや移住したばかりのメンバーたちと一緒に取り組み、その後、頴娃に各エリアで多くの観光客が手にとるものとなったのだとか。
地域との関係性を丁寧に紡ぎ、物事を進めていく
原田書店は築100年を超え、石垣商店街の中でも雰囲気のある建物だったため、町並みの再生を目的として、おこそ会の空き家再生プロジェクトとしてスタートすることになります。おこそ会の上役の後押しもあり、少しずつ話は進んでいったそうです。
しかし、資金繰りや所有者との交渉がうまく行かず、プロジェクトは断念。その時の心境を教えてくれました。
「正直、ホッとしました。建物の状態もですし、予算は予想以上に高額になりそうだったのでプレッシャーをとても感じていましたから…。」
安心したのも束の間、石垣商店街内の違う物件の空き家再生の話が舞い込んでくることになるのです。
それは原田書店の目の前にある元問屋でした。家主との交渉が進み、さらには第一工業大学・根本研究室との連携も決まり、プロジェクトが本格的にスタートしました。その中で懸念点が出てきたといいます。
その後、2016年3月。地域交流拠点として『塩や、』がオープンし、2021年3月には『だしとお茶のお店 潮や、』としてリニューアルすることになります。
プロジェクトを進める中で失敗してきたことも多かったからこそ、地域で物事を進めるには丁寧なやりとりを大切にしてきた弘志さん。
少しずつ醸成されてきた、若者が楽しいと思えるまちの雰囲気
2015年以降、若手の移住者も増え、地域内での起業や空き家再生が少しずつ進む石垣商店街。今年の6月に石垣商店街にて開催された夏祭りの光景を見てある手応えを感じたと弘志さんは話します。
20年以上続けてきた地域活動を通して感じるのは石垣地域の人たちの寛容性。道に迷った観光客を見かければ声をかけたり、移住者に対しては積極的に地域の集まりに誘ったりと、地域への溶け込みやすさはあるのではないかと弘志さんは話します。
最後に、そんな石垣地域で暮らす弘志さんに今後の夢について聞きました。
「今ある光景は当たり前ではない。先人たちが地道に時間をかけてつくりあげてきたものなんだ」と、弘志さんの言葉を聴くたびに、目の前にあるものに対する感謝が込み上げてきました。
でも、その当たり前も私たち世代の動き次第では失ってしまうかもしれない。そんな不安も同時に出てきました。ありがたいことに頴娃には寛容性という大きな武器があります。その武器は決して折れることのない芯のように強いものです。
次の世代が見る“当たり前”がどんな光景になっていくのか。頴娃だからこそ生まれていくであろう10年先20年先の光景が楽しみです。