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対話による合意形成で、日常をもっとラクに♪ 〜紛争解決ノウハウを日常へ活かすヒント〜

今期から、東京都の行政書士会が運営する、調停センター(行政書士ADRセンター東京)の、次長(副センター長)をしています。

とはいえ、調停人になって、あるいは、センターの運営委員になって、かれこれ10年近くが経ちますので、特段、日常には大きな変化は起きておりません。ごくたまに、次長!と呼ばれるようになったくらいでしょうか。

私たちのセンターは、調停を行う機関です。調停とはすなわち「紛争解決」。日本語で紛争解決と言うと、大規模なものをイメージしてしまうかもしれませんが、おそらく言葉のイメージよりははるかに身近で、個人的な内容をも含有していて、簡単に言えば「トラブル解決」のことです。

ここ数年、私は調停人の養成にも関わっており、センターで採用している「対話促進型」と呼ばれる調停スタイルのメソッドをお伝えする役割も担っています。

そのため、そのノウハウを、相談対応者のための相談技法や傾聴スキルなどに分解して、企業や大学、行政書士の方々に向けて講義させていただく機会も増えてきました。

そんな中で色々と感じたり、気づいたりすることがたくさんありますので、少しずつ紹介させていただきたいなと思います。

まず今回は、そもそも「調停」とは?「対話促進型調停」とは? についてご紹介したいと思います。

調停とは?

調停とは、トラブル解決方法のうち、話し合って合意策を検討する方法のことです。調停をするかどうかも任意なら、話し始めた後に合意するかどうかも任意です。全てが任意なだけに、強制力に従わせることはできませんが、その分、当事者が主導権を持ったまま、その解決に主体的に関われる大きなメリットがあります。

似たようなところで仲裁がありますが、国際取引などではよく耳にする言葉かもしれません。当事者が「裁判官」にあたる仲裁人を選び、紛争の解決を任せる紛争解決手続です。仲裁という方法をとるのかどうかや、誰を仲裁人にするかの選定は任意ですが、ひとたび仲裁を選び仲裁人を決めて、仲裁の手続きを始めた場合には、そこで出された決定には従う必要がある点が、調停とは異なります。

何れにせよ「裁判ではない紛争解決法」という意味で、調停も仲裁も、ADRに該当します。(Alternative 代替的、Dispute 紛争、Resolution 解決(手続)=裁判外紛争解決手続)

ざっくりと、強制力のあるなしや、当事者が解決内容に関与できる度合いなどで分類分けしてみるとこんな感じでしょうか。

*仲裁は、始めることや誰を仲裁人に選ぶかはコントロール可能ですが、一度開始したら結果には従うことになります。
*左下の「逆らえない誰かからの強制」とは、例えば町内会や会社、学校など逃れにくい状況下では、案外多い解決方法かもしれません。

そんな中でも「対話促進型調停」というのは、日本ではまだまだ新しいスタイルの調停となります。

対話促進型調停とは?

その起源は、アメリカでは「win-win Resolution型」などとも呼ばれる調停スタイルになります。

その名の通り、当事者双方の満足・納得のいく合意形成を目指すことを目的にした調停で、裁判のように白黒はっきりつけたり、主張の正当性で勝敗を決めたり、争ったり、妥協をしたり、痛み分けをしたりする解決とは、根本的に、目的やそのあり方が大きく異なります。

日本の調停が全てこのやり方を採用している、ということではなく、むしろ従来の日本の調停にはない発想とスタイルで、まだまだ珍しい部類に入るかなと思います。現代版調停、とか、アメリカ型調停、とか、呼ばれることもあり、当事者双方が同じテーブルにつくことから、またの名を、同席調停とも言います。

喧嘩真っ只中の当事者を同じテーブルにつかせて、調停人が間に座り、当事者の話し合いをファシリテートしていくわけですから、なかなかな状況ですよね。

そしてこの方法は、言うは易し行うは難しで、調停人を目指すべくセンターの研修に参加された方々は例外なく、壁にぶち当たり、大きな混乱と苦労と迷いと悩みを体感しながら、このメソッドを会得していくことになります。

私は約10年前、この調停スタイルをニューヨークの調停センターで実践され、日本に紹介されたレビン小林久子先生から研修を受け、雷に打たれたような感動を覚えたことを、今でもはっきりと覚えています。

この調停スタイルを学ぶには、講義で理論やスキルを一通り学んだ後は、ひたすら、ロールプレイと言って、研修生がお互いに当事者役と調停人役を交代しながら行う実践型の練習を繰り返します。しかしはじめのうちは、何が何だかわからないことだらけなので、どうしてもデッドロック(当事者双方が、相反する主張を繰り返したまま一歩も譲らず、やりとりが硬直状態に陥ってしてしまうこと)になってしまうことが多くあります。でもそこへレビン先生がやってきて、調停人役を交代すると、スルスルスルっと話が進み、頑なだった当事者の態度があっという間にほぐれていき、硬直状態だったのが嘘のように対立が解消されて、文字通り対話が促進され、合意が形成されていくのでした。

当時はそれを見て、「魔法か!」と思いました。

さらにすごいと感じるのは、調停人が解決策を示すことは一切せず、喧嘩真っ只中にいるはずの当事者が、対話によって、自ら進んで解決策を検討し始めるようになっていくということです。

調停人はトラブルを解決しないし、事実認定もしません(できません)、主張の正しさの評価も、妥協の要請もしません。ただひたすらに、当事者双方が、自らの力で解決していける状況になるように、傾聴とプロセス管理によって、お二人の話し合いをファシリテートするのみなのです。

こう聞くと、そんなことでトラブルが解決できるの?机上の空論では?という感じがしませんか?

実際、私自身、習ったばかりの頃は、「そんな上手くいかないでしょ〜?」と半信半疑でした。

でもその後、何とかかんとか調停人になり、実際の調停の現場に立って初めて、自分自身でも驚くほどの効果を、自らで、実感することになったのでした。

この「対話促進型」・「win-win Resolution型」と呼ばれる調停の最大の魅力は「当事者自身が紛争を解決できる」ことであり、だからこそ「強制力はないのに、決めた合意内容が守られる確率がとても高い」ことや、双方満足の合意を形成する過程を踏むことで、「当事者同士の人間関係までをも改善」していけるところにあります。

さらに、自分で合意内容を決めた、すなわち、自分で解決した、と思えるからこそ、トラブルと向き合う自信と勇気も育むこともできると思うのです。

人は生きている限り、そして、様々な多様性を大切にすればするほど、価値観や意見の違い=対立や、それに起因するトラブルは、もはや全く珍しいことではなく、デフォルトだと思うのです。

そんなデフォルトであるトラブルを、必要以上に回避せず、あるいは、ただ闇雲に戦闘態勢になるのでもなく、真摯に向き合い、諦めずに解決に向かって取り組もうとする姿勢を育むことができると思うのです。

さて次回は、ちょっとした言葉の違いがトラブルになったり、トラブルを解決したりする、そんなお話をお伝えしてみたいと思います。

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