可愛さの中にある毒
石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり
アーティゾン美術館にて2020年6月23日[火] - 10月25日[日]まで開催
高い技術力で多彩な表現方法を自在に操り細部まで手をぬかずそれでいて高度な全体像を作り上げた。
連れだって訪れた来場者が、「これ、いいね」という作品がそれぞれに違うのは、多彩な表現方法にて間口をとても広くしているから。
一貫したテーマは生命力。
つぶらな瞳と整った顔立ちの無表情な少女。その小さな口がオオカミを加えている。少女は怒りも喜びもみせず、ただ野獣をくわえていた。何の疑問も抱かずに。
少女の顔は守られるように毛皮で囲まれている。当然のように少女はその状況を受け入れている。なんの疑問もみせずに。
非現実な少女の様相が見せる現実。それは、本来あるべき狩るものと狩られるものの逆転。それを、彼女は見せる。子どもがオオカミをくわえるのは自然界の力関係を破壊した人間の作った人工的なヒエラルキーを思わせる。
人間社会においても必死で生きなければならない者もいる。それは、社会のヒエラルキーの下で虐げられた存在。
政治家が声を上げれば、人は耳を傾けるが、貧困で生きるのが精一杯の者、ハンセン病という差別で隔離された存在が、何を言っても、誰も耳をかさない。だから、彼女はそれを伝える。とても可愛い刺繍やパッチワークを用いた布で作られた絵画にて。その中にある哀しい物語が解説のボードを手に取って読むと理解できる。可愛らしい刺繍絵の中の現実。解説ボードの内容を読んで分かる逆転の物語。
解説のボードは彼女が私達に与えたヒント。ホントは読まなくても分かって! 分かるでしょ? でもちょっと親切に解説ボードを置いたから。読まなくてもいいの? こんなにヒントがあるのに。
不自由さと不条理から逃れられない存在を描くことで、見る者に訴えている作家の作品は奥が深くいつまで見ていられる。
声を上げられない虐げられた存在にも命はある。思いもある。
餌がなくて山里に降りてきた野獣はどんな思いで殺されたのか?
おそらく作者もわからない。ただ、その現実をとても美しい芸術作品にする。
それを目にした者はどこまで深く彼女のメッセージを、受け止めるのだろう?
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