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パッケージやノーコードで十分?スクラッチ開発でしか得られない価値とは

ローコード/ノーコード開発ツールやクラウドサービスの選択肢が増えたことで、多くの企業が「すぐに使い始められる」という理由から導入を進めています。実際、日本企業の37.7%がすでにこうしたプラットフォームを導入しているという調査結果もあります。

しかし、導入後に活用が進むにつれ、ローコード/ノーコード開発ツールの限界を感じ、「これなら最初からスクラッチ開発を選択すべきだった」と後悔するケースも一定割合で増えてきているように感じています。

中小企業の経営者やIT担当者の中には、手軽に導入できる市販パッケージやノーコードツールで自社のシステム要件はまかなえる、と考えている方も多いでしょう。確かに、パッケージシステムは標準機能が一通り揃っていて比較的安価・短期間で導入しやすいものが数多く提供されています​。ノーコード開発ツールも専門知識がなくても直感的にアプリを作れる便利な選択肢です。しかし、それだけで本当に十分でしょうか? 成長していく自社のビジネスに沿ったシステムを長く使っていくためには、実は「スクラッチ開発」だからこそ実現できる価値が存在します。

ではスクラッチ開発とは何でしょうか? 簡単に言えば、「既存のパッケージソフトなどを使わず、ゼロからオリジナルのシステムを開発すること」です​。いわゆるオーダーメイドでシステムを作ることで、雛形や既成の仕様にとらわれない自由な設計・開発が可能になります​。本記事では、パッケージソフトやノーコードでは得られないスクラッチ開発ならではの価値について、初心者の方にもわかりやすく説明します。ストーリー仕立ての事例も交えますので、「ウチの会社にも当てはまるかも?」と感じながら読んでみてください。

スクラッチ開発でないと実現できない価値

パッケージやノーコードが抱える課題

既製のパッケージソフトやノーコードツールには手軽さや低コストといったメリットがある一方で、いくつかの課題や限界もあります。代表的なものを見てみましょう。

  • カスタマイズの制約: パッケージソフトはあらかじめ想定された機能が搭載されていますが、自社の業務にピッタリ合わせて細部まで変更することは難しい場合があります。一般的な機能でも自社には不要だったり、逆に必要なのにパッケージに含まれていないこともあるでしょう​

  • スケールや将来の成長への対応難: ビジネスが順調に成長し取引量や拠点数が増えたとき、市販ソフトでは性能や機能面で物足りなくなるケースがあります。ユーザー数やデータ量が当初想定より大幅に増えると動作が重くなったり、高額な上位プランへの乗り換えが必要になることもあります。また、新しいサービス展開や事業拡大に伴い「こういう機能が欲しい」と思っても、パッケージ製品のロードマップにない機能はすぐには追加できません。ノーコードツールでもプラットフォーム自体の制約上、実現したいアイデアを自由に形にできない場面があります​

  • ベンダーやサービスへの依存: パッケージやクラウドサービスを利用する場合、その提供元のサポートやサービス継続性に依存します。もし提供会社がサポートを終了したりサービス自体を停止してしまったら、こちらではコントロールできません。実際、製品によってはサポート期間終了後に新OSで動かなくなってしまうなどのリスクもあります。自社でソフトの中身を直接触れない以上、トラブル発生時もベンダー頼みですし、カスタマイズ要望にも限界があります。「せっかく社内にノウハウが蓄積してきたのに、ソフトの都合で使えなくなる」といった不安もつきまといます​

こうした課題から、「現状のパッケージでは業務にフィットしない」「このままでは成長についていけない」と感じる企業も少なくありません。

スクラッチ開発ならではの強み

では、スクラッチ開発にすると何が違うのでしょうか。最大の強みは一言でいえば「自由度」です。自社の業務に合わせてゼロから作るため、既存製品の仕様に縛られることなくやりたいことをそのままシステムに実現できます​。具体的なメリットをいくつか挙げてみます。

  • 業務に完全フィットしたシステム: スクラッチ開発の一番の価値は、自社のビジネスに合った仕様でシステムを作れることです。業務フローや社内ルールに沿って必要な機能を盛り込み、不要な機能は省くことで、「痒い所に手が届く」システムを実現できます​

  • 将来の変化や成長にも柔軟に対応: 一度オーダーメイドで作ったシステムは、自社でコードを保有しているため必要に応じて改修・拡張が可能です。新しい業務プロセスを追加したり他システムとの連携機能を作ったりと、ビジネスの変化に合わせてシステムも進化させられます。外部パッケージのように「提供元の都合で使えなくなる」心配もありません​

  • 競争力の源泉になりうる: 他社にはない独自の機能やサービスをシステムで実現できるのもスクラッチ開発ならではです​

このように、スクラッチ開発には「痒い所に手が届く」きめ細かな対応力と、将来にわたって「伸びしろを自分でコントロールできる」という強みがあります。ただし、実際にスクラッチ開発を選ぶかどうかは自社の状況次第です。次に、架空のストーリーを通じてその判断ポイントを見てみましょう。

実際のストーリー(架空の事例)

ここで、スクラッチ開発の価値を実感できる架空の中小企業のストーリーをご紹介します。「パッケージで十分」と考えていた企業が、なぜスクラッチ開発に踏み切ったのか? ぜひ自社の状況に重ね合わせてみてください。

とある製造業の中小企業A社(従業員30名)。A社は創業当初、在庫管理や受発注の業務に市販のパッケージシステムを導入しました。導入コストも抑えられ短期間で使い始められるということで、「まずは既製品でやってみよう」と考えたのです。導入当初は、手作業やエクセル管理が減り、担当者も「便利になった」と満足していました。

しかし、A社が事業拡大を始めると次第に不便さや限界が見えてきました。 新商品を次々と開発した結果、パッケージの想定以上に商品マスタが増えて管理画面が煩雑になりました。また販売チャネルも店舗だけでなくネット通販を開始したものの、使っていたシステムではネット注文との在庫連携がうまくできません。担当者は通販用に別のクラウドサービスを使い、在庫データを毎日エクスポート・インポートして二重管理する羽目に…。現場からは「入力や確認の手間が倍になってミスも増える」と不満の声が上がり始めました。経営者のBさんも、在庫数の不一致や受注処理の遅れでお客様に迷惑をかける事態に頭を抱えるようになります。

このままでは業務効率も信用も落ちてしまう――そう危機感を覚えたBさんは、思い切ってスクラッチ開発によるシステム刷新を決断します。信頼できる開発パートナーに相談し、A社の業務に合ったオリジナルシステムを一から作るプロジェクトがスタートしました。開発には時間と費用がかかりましたが、完成した新システムは在庫・受注・通販を一元管理できるA社専用のもの。以前は手動だった在庫同期もリアルタイムで自動化され、受注処理もボタン一つで完結します。導入後、現場スタッフからは「もっと早く欲しかった!」「ミスが激減して助かる」と喜びの声が上がりました。Bさん自身も、各種レポートをワンクリックで確認できるようになり経営判断がスピードアップ。「あのときスクラッチ開発に踏み切って本当に良かった」と実感しています。

このストーリーは架空の例ですが、パッケージソフト使用時の悩みとスクラッチ開発後の効果をイメージしていただけたでしょうか。ポイントは、業務の成長につれて現れたギャップを埋めるためにスクラッチ開発が活躍したという点です。では、実際にどんな企業・シチュエーションならスクラッチ開発を選ぶべきなのでしょうか? 続いて考えてみましょう。

スクラッチ開発を選ぶべきシチュエーション

スクラッチ開発には多大なメリットがありますが、だからといって全ての企業・全てのシステムに最適というわけではありません。「どんな場合にスクラッチ開発を選ぶべきか」、いくつか代表的なシチュエーションを押さえておきましょう。また、判断する際に欠かせない費用対効果の考え方についても触れておきます。

スクラッチ開発が向いている企業・業務

以下のようなケースでは、スクラッチ開発を選ぶ価値が高いと言えます。

  • 業務プロセスが独特で市販ソフトに合わない: 自社ならではのサービス形態や業務フローがあり、「既存ソフトに無理やり合わせると効率が落ちる」と感じる場合です。自社の強みである独自プロセスを大事にしたい企業は、スクラッチ開発でその魅力を損なわずにシステム化できます。

  • 既存製品では必要機能が不足している: 試してみたパッケージにどうしても欲しい機能が無かったり、カスタマイズでも対応できない場合です。「○○さえできれば完璧なのに…」という機能があるなら、スクラッチ開発で一から作った方が早いこともあります。

  • 複数のシステムをまたいだ非効率が大きい: 業務上、複数のツールを使い分けていてデータの二重入力や照合作業が発生している場合です。スクラッチ開発で関連機能を一つにまとめた統合システムを作れば、こうした無駄な作業を大幅に減らせます。人手によるミスも減り、トータルの業務品質向上につながります。

  • ITを競争優位に活用したい: 単なる事務処理効率化ではなく、ITシステム自体を他社との差別化要素にしたい場合です。例えば独自のマッチング機能や顧客分析機能など、既存ツールにはない革新的な機能を実装してサービス展開したい時、スクラッチ開発は強力な選択肢となります。

  • 将来的な拡張・変更を見据えて投資できる: 今後の成長計画があり、それに沿ってシステムも継続的に改良していく覚悟がある企業です。スクラッチ開発は一度作って終わりではなく、育てていくもの。将来のニーズに合わせて投資を続ける意思とリソースがあるなら、長い目で見て自社に最適なシステムを育て上げることができます。

費用対効果の考え方

もちろん、スクラッチ開発は初期費用が高くつきがちです​。パッケージ導入が数百万円規模で済むのに対し、フルスクラッチ開発では最低でも数百万~数千万円の予算を見ておく必要があります​。中小企業にとって、このコストは大きなハードルに感じられるでしょう。しかし重要なのは、費用を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点です。

例えば先述のA社のように、スクラッチシステム導入によって月々の業務時間が大幅短縮できれば、人件費や機会損失の削減効果は計り知れません。仮に毎月50時間の作業削減になったとすれば、その分の人件費相当額を年間で考えると数百万円の節約になります。5年使えば数千万円規模の効果となり、初期投資を上回るリターンが見込める計算です。さらにミス削減によるトラブル防止や、効率化によって生まれた時間で新たな営業活動ができるなど、数字に表れにくい効果も含めれば、得られる価値は費用以上でしょう。

費用対効果を考える際には、「初期費用の大きさ」だけでなく「それによって得られる利益や節約効果」を長期的視野で捉えることが大切です。スクラッチ開発は確かに高額ですが、自社の成長戦略と照らし合わせてそれだけの価値があると判断できるなら、検討する意義は十分にあります。逆に言えば、明確な課題がなく現状のソフトで事足りている場合は、無理にスクラッチにこだわる必要もありません。あくまで費用対効果に見合うタイミングや目的があるかが判断のポイントです。

まとめ

既製のパッケージソフトやノーコードツールは手軽で便利ですが、自社の成長や独自性に合わせたシステムを作り上げるには限界があることをお伝えしました。一方、スクラッチ開発には業務に完全フィットしたシステムを構築し、将来的な変化にも柔軟に対応できるというスクラッチならではの価値があります。架空の事例A社のストーリーからも、スクラッチ開発がもたらす業務効率化や競争力強化のイメージをつかんでいただけたのではないでしょうか。

とはいえ、何でもかんでもスクラッチ開発すれば良いわけではありません。費用対効果を見極め、本当に「自社にとってピッタリのシステム」が必要な場面で選択することが重要です。もし今お使いのシステムに少しでも「うちの業務に合っていないかも」「将来に不安がある」と感じているなら、この機会にスクラッチ開発を検討してみませんか? 自社の業務にピッタリのシステムを一から作り上げる体験は、きっと貴社の成長を力強く後押ししてくれることでしょう。