1年で200講座をカタチにした「企画の高速実現法」
私は社会人向け講座づくりを生業としており、2019年は200講座つくりました。
テーマは事業創造を中心に、デザイン、アートから哲学、建築など多岐にわたります。主催も受託もします。著名人の登壇もあれば、独自に講師も発掘しています。
一つの区切りを迎えたので、自分なり突き詰めてきた方法論を、言葉にし尽くすことに挑もうと思います。
200回というのは単純計算で平日ほぼ毎日というペースですが、1つ1つを迅速かつ的確に成立させ、1人1人の参加者の満足を継続した結果です。
その考え方は誰にでも役立つはずです。
「誰もが自分の場をつくる」世界を実現するために
私が目指すのは、誰もが自分の場をつくれるようにすることです。
そのために「一般ビジネスパーソンが個人で学びの場をつくり続けるための、最も解像度の高いガイド」を作りたいと思います。
この記事が、コミュニティー・マネージャーなど、場づくりをしている人の役に立ち、これから企画づくりを始める人の後押しになれば幸いです。
前提
本稿で述べるのは「誰でもすぐ役立つ」ハウツーではなく、1つ1つの企画を迅速かつ的確に成立させ、1人1人・1回1回の参加者満足を追求する「基本的な考え方」とご理解下さい。
実際、諸条件は毎回違うので、私も参加者や登壇者など関係者と真摯に向き合い、臨機応変に対応しています。
構成
初回は全体像とその関係性が分かるよう、各項目は簡潔に記しております。
まずは実現について。
最速で企画をつくり、その提案が受け入れられる可能性を最大化する考え方をお話しします。
次に阻害要因の無化。
収支構造とオペレーションについて、それらが企画成立のブレーキにならないようにする方法を記します。
集客についても触れておきます。
最後に着想。
人から企画を考えること、そのために人を足と目で探すことについて述べます。
1)最速で企画を書く
講座案内を30分で書ければ、出会った翌日には講座を公開できます。
必要項目が頭の中で整理されていれば、その場で具体的な企画を提案して返事がもらえますし、その日の内に案内文も送れるからです。
また、最初から講座の案内文案ですり合わせると、別途企画書を作る必要がなくなります。
基本構成をフォーマット化し、書くのに必要な要素が頭に入っていれば、即時に口頭で企画を提案でき、30分くらいで文案を書けるようになります。
主な要素は実施目的、ターゲットとそのの課題、講座が課題をどう解決するのか、講師が話すに値する根拠などです。
具体的な企画を即座に提案できる力は、実現の速度と確度を上げるベースとなります。
2)提案の確度を上げる
相手がOKする確率を、提案前に可能な限り高めるように、提案を構成していきます。
相手の登壇動機に目星をつけ、登壇によりどのような価値を提供できるのか、なぜその価値が実現できるのか、それをどう相手に伝えるかを組み立てて行きます。
相手の動機と提供価値を類型化して絞り込む
登壇者には必ず動機があり、それを外さなければOKをもらえる可能性は格段に高まります。
講座の場合、登壇により提供できる価値は参加者接点やPR機会などに絞れます。
登壇者のニーズもPR、営業・マーケティング、採用など類型化でき、両者の組み合わせもパターン化できます。
相手の属性や言動を分析すれば、動機と価値の組み合わせの的が絞れ、確度を上げることができます。
材料を集める
次に、説得材料として、提供価値の具体内容と実現可能性の根拠を整理します。
例えば、事業開発支援を生業にしている人に対して「案件に繋がる可能性のある大企業の事業開発部門の管理職クラスが来る」といった具体内容と、それが実現できる根拠を準備するといったことです。
根拠としてわかりやすいのは過去の実績ですが、「この層のこういうニーズにこうアプローチをすれば、これだけの参加が見込まれる」というように、推論で説得する方法もあります。
とにかく頑張りますという「熱意」も、それはそれで材料となります。
どれか1つではなく、組み合わせで確度を高めていきます。
阻害要因は潰し、加点要素があれば追加し、相手に合わせて、相手が信じるに足る材料を集めます。
相手に合わせて伝える
最後に、相手のコミュニケーションスタイルと、相手と自分との関係性に合わせて伝え方を決めます。
簡潔なスタイルを好む人ならメッセンジャーで要点だけ伝えますし、大企業の経営者に広報経由で申し込むなら必要要素を盛り込む、といったことです。
そして、伝え方に合わせて材料を取捨選択して組み立てます。
メインは企画としての講座案内文に、頭出しと補足などは依頼文に盛り込みます。
こうして事前に、相手がOKする確率を考えうる限り最大化しておきます。
提案は仮説検証
実際に提案すると何かしらの反応があり、相手の考えやクリアすべき課題が垣間見えます。
「その時期が忙しい」と言われたら「別の時期ならどうか」と再提案することもできます。
仮説検証の結果は学びとして、次回以降の確度向上に役立てます。
なお、本稿では分かりやすさのために「登壇者」に絞ってお話しましたが、会場提供などへの提案も考え方は同じです。
3)本筋以外の阻害要因を潰す
登壇者さえ押さえれば、あとは心置きなくアクセルを踏めるのが理想です。
そうなるために、赤字の懸念(カネ)とスタッフ手配(ヒト)という本筋以外の主な阻害要因を無化する仕組みを作ります。
赤字にならない収支設計
赤字にならないような収支構造にすれば、集客の心配が心理的ブレーキになることを避けられます。
理屈上、固定費が0なら売上が無くても赤字にならないので、固定費を削減・変動費化します。
最大の固定費は会場と講師です。
会場が必要なら無償提供者を探します。
講師には相応の謝礼を支払うことが前提ですが、プロフィットシェアにすることもあります。
その上で、参加者価値に照らし合わせて見合わない冗費は徹底して削れば、赤字になるリスクを最小化することができます。
事実、私はこれまで1度も赤字になったことがありません。
当日運営の「誰でもすぐに一人でできる」化
当日運営スタッフの手配ができず日程が決まらないというのも、本筋ではない阻害要因です。
主催者が1人で当日運営を回す「ワンオペ」が可能なら、スタッフは不要になります。
事実、シンプルなセミナーなら参加者100人くらいは1人で回せます。
加えて、当日運営を「たまたま居合わせた学生が何の説明せず問題なくできる」まで簡素化・標準化すれば、当日運営スタッフは「誰かいれば最悪その日にお願いすればいいし、いなければ自分でやればいい」くらい気軽なものになります。
誰でもすぐに一人でできる状態を要件として、参加者価値に見合わないことは削り、テンプレート化や自動化を重ねていけば、非属人ワンオペ化は実現できます。
改善とあそび
オペレーションは改善を重ねれば確実に効果が出るので、毎回課題と改善提案を洗い出す仕掛けを作ります。
最も役に立つのは主催者たる自身による洞察です。アンケートからは自分からは見えない改善のヒントを得ます。スタッフやモニターから詳細フィードバックしてもらうのも一案です。
課題は即時・即日記録していき、改善項目はすぐに反映します。
ただ、改善だけでは質的な飛躍がないので、普段やらないことを敢えてやってみたり、あえて制約を課すなどの「あそび」を時々意識的に入れたりします。
4)集客は地上戦から始める
参加費売上のための集客は気にしなくて良くする方がいいですが、ターゲットを適切に集めることは、企画目的達成の必要条件であり、登壇者の価値になる、最重要事項です。
どう集めるかの前に、誰を集めるか
集客で最も重要なのは、実施目的を定め、それに合わせて、どんな人に、どれくらい来てもらい、どんなBeofre/Afterを実現するかを定めることです。
それによりどのように参加者を集めるかが定まるからです。
目的は、活動や事業全体の目的と整合するよう個別の企画の目的を定めます。例えば、ファンベース作り、プロモーション、リード獲得、コンテンツのプロトタイピングなどです。
長期目標はリピートと紹介による継続
私が知る、大規模・高額で長く続いているプログラムは、2つとも1/3が過去の受講生の紹介であると、それぞれの運営者から聞きました。
しかしこれは、適切なターゲットが参加し満足することを続け、リピーターとサポーターが蓄積することで可能になるもので、初期には使えません。
とはいえ、そうなることを目指して、適切なターゲットを集め満足を重ねることを意識します。
初期はターゲットに合致する人を個別に口説く
実績や参加者の蓄積がない段階では、主催者が会って誘うことや、個別の文面で名前を入れてメッセージやメールを送ることが、古典的ですが最も効くものです。
ただし、これを毎回やるのは大変消耗することなので、徐々に仕組みとリピーター・サポーターといった資産を活用した集客の割合を高めていくことが、持続可能性を高めるポイントです。
また、たくさんの人に伝え続ける内に、自身の覚悟や考えが固まり、刺さる表現が洗練され、初期の中心メンバーが見つかることもあります。
集客は企画で決まるが、水モノでもある
企画が刺されば申し込みが殺到します。
刺さらないと、広告を打ち招待をばらまいても人が集まりません。
熟達のイベンターは、不思議なくらい口を揃えて「集客は企画で決まる」と言います。
しかし、全く同じ講座を全く同じ条件でほぼ同じ時期にやって、申し込みが3倍違ったこともあります。
練りに練ったものが振るわず、ノリで軽く作ったものが大ヒットすることもあります。
企画段階で知恵は絞るが、公開後の反応にも臨機応変するのが現実です。
5)着想は人から
個人の関心の幅やアイデアの量には限界があるため、自分が面白いと思った人から講座を着想しています。
人から着想する方が相手に合った独自の講座ができやすい利点もあります。
そうした人を、足を使い自分の目で選びます。
「人を見たら登壇者と思え」くらいの心づもりでいれば、日々はネタにあふれていると感じることでしょう。
足を使い、縁をつくる
新たな人との接点を見出すために、自分でもイベント等に参加します。
アテもなく行くより、然るべき人の目利で選ぶことが多いです。参加費やコミットのハードルが高いものや紹介制の場は、参加者や関係の質が高い傾向にあります。
主催者、登壇者、会場提供者などの方が新たな登壇者の発掘に繋がることが多いです。
1つの分野に偏ると人の繋がりも偏り、分野を越境した組み合わせの企画ができなくなるので、普段行かない分野や客層のイベントに敢えて行き、つながりの幅を強制的に広げるようにしています。
自分の目で見る
可能な限り、人前で話しているのを自分の目で見てから登壇を依頼するようにしています。
ちなみに私が登壇をお願いする人で多いのは、一言でいえば「プロフェッショナル」です。
どんな質問に対しても素人が腑に落ちるロジカルな説明ができる、目的に対して合理的な割り切りができる、美意識を持って独自の方法論を探究している、実践者ならではの生々しいエピソードが会話の端々に出る、といった傾向があります。
備考:対象外の要素
この方法論は、100人以下の規模で、継続的に実施する社会人向け講座の経験から導き出されたものです。
普遍的に役立つことを意識してはおりますが、規模、形態、ターゲットやジャンルといった前提が異なれば、当然最適解も異なる点はご留意下さい。
「学び」と言っても、学生、若手社会人、主婦など属性が違えば関心も使っているツールも違うので、企画の立て方・書き方・伝え方も変わります。
交流会や趣味の集まりなどもやり方が違うので、対象外にしています。
また、以下についても対象外です。
空中戦の集客の仕組み
デジタルマーケティングなど、集客の仕組み化は入っておりません。初期の段階は企画と地上戦の方が重要だからです。
但し、初期の基盤確立後は必要なものなので、次の段階で方法論化を進めます。
単発イベント
一発で確実に成功させなければならない単発イベントに必要な、コンセプトデザイン、クリエイティブ、集客などの専門テクニックもスコープ外です。専門家ではない人でもできるレベルにとどめております。
大規模イベント
個人がドライブできる段階にフォーカスしております。スタッフの手配や進行管理などオペレーションが根本的に異なります。企画やプロモーションも大規模で専門分化します。
複雑なプログラム
複数回クラスがあるようなプロジェクト型のものなども設計や調整が異なります。本稿では初期段階の選択肢であるシンプルなセミナーのような企画を主たる対象としております。
協賛イベント
協賛イベントの性質は大規模・単発イベントに近くなります。また、収益源の依存、スポンサー獲得・対応工数などで、やり方が根本から変わります。
参加者に価値を提供するというシンプルな本質に集中するため、ここでは参加費収入のみのシンプルな企画を前提とします。
その他、同じコンテンツをリピートするものや、場や企画ではなく講師で集客が決まるものなども、作り方が異なります。
さいごに
200講座をつくってきた中で、自分なりに考え突き詰めてきた方法を、言葉にして出し尽くしたいと思い、まずは全体像と骨子を簡潔に書いてみました。
一つ一つは皆さんがビジネスで当たり前にやっていることでしょう。
しかし、イベントという慣れないものを主催する側に立つと、思いの外その「当たり前」を見失いがちです。
これが、そんな時に基本に帰る道標となればと思っています。
私が目指すのは「誰もが自分の場をつくれる」ようにすることです。
そのために「一般ビジネスパーソンが個人で学びの場をつくり続けるための、最も解像度の高いガイド」を作ることに挑もうと思います。
これが、場づくりをしている人の役に立ち、これから企画づくりを始める人の後押しになれば幸いです。
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