ノイアーの語る「コロナ禍と、いま僕が大切にしていること」
—— 以下、翻訳 (インタビュー記事全文)
特急列車のようなキャリアから、地元ゲルゼンキルヒェンの子どもたちに至るまでのストーリー。ワールドクラスのゴールキーパーであるノイアーは、サッカー以外の時間をどう過ごしているのだろうか?ドイツNo.1キーパーとのオープンな会話を紹介しよう。
サッカー界において、ゲルゼンキルヒェン出身である彼以上の成功を掴むのは難しいだろう。マヌエル・ノイアーは世界年間最優秀ゴールキーパーに4度選ばれており、ドイツ・ブンデスリーガで8度、チャンピオンズリーグで2度優勝している。そして、彼はFCバイエルン・ミュンヘンのキャプテンであるだけでなく、2014年ブラジルワールドカップで優勝したドイツ代表チームのキャプテンでもある。
ドイツ『t-online』のインタビューの中で、34歳の彼は、世界的なスター選手としての人生、コロナ禍の困難な時代のドイツ、そしてここ数十年のプロサッカーの変化について率直に語ってくれた。
t-online:ノイアーさん、あなたのようなサッカー界のスター選手は特別な人生を送っています。どこにでも認められ、応援され、ファンと一緒に写真を撮り、サインをしなければなりません。皆があなたに注目しています。自由な気持ちはどれほど感じられていますか?
マヌエル・ノイアー(34歳):自然の中で散策やハイキングをしたり、定期的に散歩をしたり、レース用の自転車に乗って何kmも走ったり、好きなところに出かけたりしている。素敵なレストランにも、ファーストフード店にも行くよ。僕は自由を感じている。そして、人々は僕のことをとても繊細に扱ってくれるよ。
常にそうなのですか?
まあ、そうだね。例えばコロナが流行する前にヴィクトアーリエンマルクトでアジア系の観光客に出会った時にはそうではなかったけど、それもまたいいね。特にミュンヘン市民や、僕の住むテーガン湖に暮らす人々は、非常に敬意を払ってくれている。
しかし、以前クラブのインタビューで、あなたは「オクトーバーフェストに電車で行き、帽子とメガネを身につけ、うつむいて他の乗客からは目を背けていた」と言っていましたね。
ただ、オクトーバーフェストの時期になると、人々がビールを飲むのは知っている(笑)。そうするとアルコールが回り、他人に話しかけることへの抵抗が無くなることもあるだろうね。だから、人ごみには顔を向けずに立っていた方が、いくぶん無難だと思う。
今では、34歳になったあなたに対し、これまでの功績を讃え各方面から賞賛の言葉が送られています。実際には、チームの練習以外で健康のために何かされていることはありますか?
それは比較的複雑なテーマだね。睡眠、体の手入れ、食生活、きちんとした飲み物が大切な役割を果たしている。これらには気を遣っているよ。それから、リフレッシュタイムも重要なことの一つだ。これは、試合数も多いこの数週間は特に大切なことだよ。
休みの時間も大変そうですね。
その他にも、バーチャルフィットネスミラーを使ってストレッチやヨガ、ピラティスなど、気分をリフレッシュさせるのに役立つレクリエーションスポーツもやっている。あとは、ハイキングやロードサイクリングも、気分のリフレッシュや、頭を完全にクリアにするのに非常に役立っているね。
バーチャルフィットネスミラーとは?
専用の鏡(動画はこの下)が、バーチャルでインストラクターとオンライン上で繋がっており、さまざまなコースを選択できるようになっている。「鏡の中」のコーチが僕に何をすべきかを教えてくれるライブワークアウトが好きだ。特に気分転換に繋がる、役立つ運動だよ。
現在、あなたと同年代の多くのアスリートたちが、各々のスポーツで偉業を成し遂げているのが印象的です。テニスのラファエル・ナダル(34)、バスケットボールのレブロン・ジェームズ(35)、F1のルイス・ハミルトン(35)、サッカーではクリスティアーノ・ロナウド(35)や、あなた。その理由は何だと思いますか?
僕らは皆、経験豊富で、自分の体のことをよく理解している。また、今言われたスポーツ選手たちは、自己管理能力が高いことでも有名だね。そして、特に僕はゴールキーパーであり、右サイドバックや "ボランチ"の選手みたいに1試合で13kmも走る必要がないのは幸いしている。僕は、決定的な瞬間のためにピッチに立っているのだ。
オリバー・カーン氏は38歳でようやくキャリアを終え、ディノ・ゾフ氏は40歳で世界王者となり、ジャンルイージ・ブッフォンは42歳になった今なお現役で活躍しています。ワールドクラスのキーパーの最年長記録を押し上げることができるのか、あなたの体はどう言っていると思いますか?
最年長記録を更新すること自体は目標ではない。楽しいからプレーしているのだ。そして今、僕は自分がまだ必要とされていると実感している。それに、僕の状況では、健康という観点は非常に重要だ。言い替えれば、体が元気で自分が必要とされている限り、引退は考えていない。
ドイツには、サッカーをはじめスポーツを楽しみに過ごしている子どもたちが何十万人もいます。しかし現在、コロナ対策の厳しい規制により、練習や試合がほとんどできていない状態です。こうした子どもたちに何かメッセージは?
自宅の中で子どもたちのモチベーションを高めるのは、極めて難しいことだ。もちろん気の毒に思うよ。だからこそ、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で、自宅でも実践できる練習を紹介することにした。ここ数ヶ月の間、好評だと願っている。僕はサッカー選手として、子どもたちに何か恩返しをすることを義務だと思っているよ。
あなたが設立した「マヌエル・ノイアーこども財団」では、社会的に困窮した背景を持つ子どもたちを特別に支援しています。彼らは現在、スポーツができない中、どう過ごしているのでしょうか。
誰にとっても大変な状況だが、特に子どもたちは家にいなければならないこともあり、広いスペースが使えない状況だ。なので、僕はあらゆる可能性を活用したいと考えているよ。
例えば、どういったことでしょうか?
ゲルゼンキルヒェンにあるユースセンター「マヌス」では、開催が許可される範囲内で、各プロジェクトリーダーらと協業しながら、子どもたちがマスクやコロナについて学ぶ機会を与えるだけでなく、子どもたちの才能や能力を促進しようと努めてきた。子どもたちに新たな考えを伝えることを目的としている。
ご自身の子供時代を考えてください。もしサッカーの練習や試合が一切できなくなったら、あなたが12歳や13歳の子どもであれば、どのような反応をしたでしょうか。
僕ならとても悲しかっただろうね。普段であれば毎週練習で共にプレーしているチームメイトや仲間と会えず寂しく感じることだろう。でも、僕も諦めはしない。この状況は僕にとって、ボールを蹴って庭じゅうを掘り返すことになっていたと思うよ。
...そして、リビングも汚すでしょうね。
まあ、そうだね。いずれにせよ、それは子供の頃に経験済みだよ。花瓶は何度か割ったね。母はいつも家の審判員だったが、まさにこうした状況では笛を吹いていた。当時、それが僕に合っていたかは別として(笑)。
コロナの混乱を一旦離れ、古き良き時代に思いを馳せましょう。1975年にブンデスリーガで活躍したゴールキーパーの立場なら、一番気に入っていたことは何でしょうか?
僕はゴールキーパーだ。だからこそ、当時を全く好きにはなれなかっただろう。というのも、真っ先に思いつくのが、あの当時のバックパス・ルールだからね。
具体的にはどういう意味ですか?
ゴールキーパーはチームメイトからのバックパスを、手を使って受けることができた。それは、僕には全く似付かわなかっただろう。本来ならゴールを守る役割にもかかわらず、僕は後方からパスを出したり、足元でクリアするのが好きだ。攻撃的な思考を持つゴールキーパーと言えるよ。
しかし、それは今日のようなマヌエル・ノイアーというワールドクラスのキーパーが、1975年当時にはおそらく存在していなかったであろうということですね。
その通りだ。当時なら、今のような存在になれる可能性はなかっただろうね。
今のサッカー界を何かひとつ変えられるとしたら、それは何でしょうか?
早くまたスタジアムを満員にしたいと思う。ただ、現在の僕らの社会において、無観客のスタジアムとは全く別の問題があることは補足したい。誰もがまず普段の生活に戻りたいと考えている。そして、変化と言っても、サッカーが最優先だとは考えてはいない。
サッカーの質問から、コロナのパンデミックの話題は外しておきましょう。ヘルタの元監督パル・ダーダイ氏は、サッカーはあらゆる面で変わったと以前述べていました。ゴールキーパーの役割はかつてに比べ明らかに大きくなったものの、ゴールだけは変わっていません。試合でより多くのゴールが決まるよう、より多くのチャンスがほしいと冗談めいて語りました。当事者として、どうお考えですか?
ちょっと小さなゴールキーパーに聞いてみようかな(笑)。僕はそんなにいい考えではないと思うけどね。陸上競技に例えても、ハードル走者が昔よりも速いというだけで、ハードルの高さが上がっているわけではない。
しかし、コロナのパンデミックの影響で、ブンデスリーガの交代枠は1試合あたり3選手から5選手に増えています。コロナ禍が過ぎ去った後も、これは続けるべきでしょうか?
もちろんだ。このルールが導入されたことはとても良いことだと思う。そして、1試合あたりの交代回数そのものは3回であり、交代枠が増えたことによる時間のロスもないからね。
このルールの継続に賛成ということですね。
選手たちの消耗具合にもよるが、試合日程がここまでタイトな状況が続けば、僕ら選手にとっては難しいと言える。だからこのルールは十分意味あるものだと思うよ。
リバプールのユルゲン・クロップ監督は最近、タイトな試合日程をかなり批判していますね。多くの人が言うように、トップ選手たちは最大限に”搾取されている”のでしょうか。それをどう考えていますか?
ユルゲン・クロップ監督の主張は完全に理解できるものだ。しかし、それと同時に、僕らサッカー選手は、他の多くのアスリートと違い、プレーし続けることが許される幸せな立場にあるのも事実だ。だから僕は、まったく文句は言えないね。
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